『ミックステープ:伝えられずにいたこと』ミックステープに込められた両親のメッセージを探して
好きなアナログレコードやCDから曲を選び、自分の好きな曲順でカセットやMDに録音して作る……。本作は、そんな懐かしい「ミックステープ」が重要なモチーフになる映画です。舞台は1999年。主人公のビバリーは中学1年生の女の子。幼い時に父母は交通事故で死亡し、今は郵便局員をしている祖母と二人暮らしです。若い時にビバリーを出産した自分の娘について、祖母はあまり話したがりません。ある日、ビバリーは地下の倉庫で父母が作ったミックステープを見つけます。しかし再生した途端に古いテープは切れて使い物にならなくなってしまいます。配信音楽サイトもない時代、ビバリーは曲目が書かれたインデックスカードを頼りに、両親がミックステープに吹き込んだ楽曲を一曲一曲、探し当てようとします。
チープ・トリックの「サレンダー」やバウ・ワウ・ワウの「アイ・ウォント・キャンディ」といった定番曲から、当時は手に入りにくいザ・キンクスの「ベター・シングス」、更には日本のブルー・ハーツの「リンダリンダ」まで! 曲を探していく過程でビバリーは台湾系のエレンや強面に見えたロック少女のニッキーなどの新しい友だちに出会い、今は亡き両親が辿ったデート・コースを二人と巡って、冒険を重ねていきます。そうして、少しずつ臆病な「いい娘」を卒業していくのです。両親から子どもに、カルチャーが受け継がれていく。その様子を描くこの映画には押しつけがましいところが一切なく、子どもたちが自分で音楽を発見していくワクワクするような感覚に満ち溢れています。やがてビバリーはロック・ミュージックの中に本当の両親の姿とメッセージを見つけます。たった今、ここにいなくても、パパとママは自分を愛してくれるし、今の自分を見たら、きっと好きになってくれる。少女がそんな思いにたどり着くまでを、音楽と友情、祖母のべバリーに対する愛情を交えて描く『ミックステープ:伝えられずにいたこと』は、ロックでハートウォーミングなファミリー映画です。
山崎まどか
15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)、共著に『ヤングアダルトU.S.A.』(DUブックス)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)等。
Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando