
PIPE DREAMS
夢みたいにおしゃべりな椅子
おなじみの“ボールド(太字)”のデザイン、丸みのあるシルエット、インパクトのあるビジュアル。 今やコンテンポラリーデザインのアイコンとなった「ボールドチェア」に子ども用のミニサイズが登場。 デザイン家具ブランド〈ムスタッシュ〉のステファン・アリユベルジェに、この「ミニボールド」に込めた思いを聞いた。
「ボールドチェア」は 10 年以上にわたりデザイン界に大きなインパクトを与え、デザイナーの卵たちを魅了し続けてきた。インスタグラムや雑誌で目にすることもあれば、友人宅や美術館で実物に出会うこともあるだろう。実際にニューヨーク近代美術館やパリ装飾美術館、スイスのバーゼル近 郊にあるヴィトラデザインミュージアムにも所蔵されている。デザインスタジオ「ビッグゲーム(Big Game)」が生み出したこの椅子は、発表されるや否やカルト的な人気を博した。ひと目で分かる斬新なデザイン、高密度なウレタンフォームに包まれたパイプが脚、座面、背もたれを形づくり、曲線によって生みだされた空間が快適さを生んでいる。
2009年にフランスの家具ブランド〈ムスタッシュ(Moustache)〉の カタログに登場した「ボールドチェア」は、ステファン・アリユベルジェとマッ シミリアーノ・イオリオがこのブランドを立ち上げるきっかけとなったアイテ ムだ。起業時の目玉としてとして発表されて以降、今も〈ムスタッシュ〉の ベストセラー商品として愛され続けている。
「ミニボールド」は忠実なレプリカ?
大きな話題を呼んだこのチェアは、その後ベンチやスツール、アームチェアなどさまざまなアイテムへと変化した。そして14年の月日が流れた今、ついに子ども用の「ミニボールド」が誕生した。
「子ども用の椅子については、いつも頭の片隅にありました。でもなかなか 最優先とはいかなくて」と〈ムスタッシュ〉のステファン。
「2年前に息子のオルソが生まれたんです。それがきっかけとなって具体 的な検討が始まりました。息子がいなければ、このチェアはまだ誕生して いなかったはずです」
一見すると「ボールドチェア」を小さくした完全なレプリカのように思える。しかしよく観察してみると、小さな子どもに合わせたさまざま工夫が施されている。全体の比率や背もたれの高さ、穴の大きさなど、快適さや安全性にじゅうぶんに配慮した子どもにやさしい設計なのだ。カラーのバリエーションにも遊び心を取り入れ、オリジナルの21色から赤、オレンジ、青など6色を厳選し、そこにテラゾー(人造大理石)柄の4つのパターンが加わった。靴下メーカーが手がけた布のカバーは取り外しが可能で、洗濯機で洗うことができる。先代の「ボールドチェア」と同じように一瞬でカラーチェ ンジが楽しめるのだ。デザインの世界にも持続可能性と耐久性が求められる現代において、そのニーズにも完璧に答えたアイテムだ。
はっきりと主張を持ったおしゃべりな椅子
「ミニボールド」はどこにあっても視覚的な楽しさがある。それだけでなく、デザイン性の高いアイテムを子ども部屋にも憶せず置くことができる、という強いメッセージを発している。最近の子ども用家具といえば、人間工学に基づいたデザイン、ミニマルなライン、自然素材、柔らかなカラーリングといった見た目が同じようなものが溢れている。現代の住宅では大人と子どものスペースの境界があいまいなため、子どもたちが使う道具はいつも部屋の隅に追いやられてしまっている。
「ここ数年、子ども用商品の市場は、形や美しさの面で活気がありません。どれもインテリアを邪魔しないようなものばかりで、静かで空間に溶け込むデザインがもてはやされてきました」
こうした流れとは対照的に、「ミニボールド」はミニマルなデザインでありながら、はっきりとした主張を持った“おしゃべり”な椅子だ。これまでの「ボールドチェア」は、椅子というよりも彫刻作品として見られることが少なくなかった。けれども今回誕生したチェアは、そうしたイメージより家具 としての実用性を重視したつくりとなっている。
「さらなる機能性と使いやすさを追求しました。子どもが使うなら、あらゆ ることを想定しなければなりませんから」
雑に扱われたり、汚されたり。さらには椅子とは違う使い方をされる可能性もあるのだ。
「試作品ができた時、まずは家に置いて息子がどのように使うかを観察しました。すると息子は穴の部分に頭を入れたり、背もたれの方を向いて馬乗りなったりしていました。座ること自体が遊びになる楽しい椅子なんです」
子どもたちのための、まさに夢のような家具の誕生だ。
Photograph: Oliver Fritze
Text: Sarah Berger
Translation: Kumi Hoshika