続・ははとハハの往復書簡 – 長島有里枝/山野・アンダーソン・陽子

MilKJAPON webで2018年に連載をしていた写真家・長島有里枝さんとスウェーデン在住のガラス作家・山野・アンダーソン・陽子さんの往復書簡。時間が経ち、世の中の状況も2人の関係も変わった今、またやりとりを拝見したい、とおふたりに手紙を書いていただくことになりました。その様子を短期連載として数ヶ月間、お届けします。母親として、ひとりの女性として、クリエイターとして、それぞれの“あり方”をもつ2人。その言葉から、私たちの生き方のヒントもみつかるかもしれません。
前回の手紙はこちらから。

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第6回 「シャワーと歯磨きを担当していた実績が実を結んだ」
(山野・アンダーソン・陽子→長島有里枝)

有里枝さんへ                          

こんにちは!
7月1日より規制が解かれ、コロナなど無かったかのような生活に戻りました。冬になったらまた状況は変わるかもしれないので、とりあえず今を満喫しています。私の展覧会のオープニングも4時間の間に250人近くの方にお越しいただきましたが、誰一人マスクをしていませんでした。展覧会場の入り口にアルコール消毒を置いておいたのですが、みんな、気づいていたのかな〜? 

久しぶりに会った友人とのハグの習慣も再開しています。夏の休暇でイタリアに行くとかフランスに行くとか、そんな話もよく聞くけど、さすがに国外旅行には陰性証明は必要らしいです。飛行機や空港も混んでいるって!

息子が6歳になった今、前よりは自分のための時間が取れていると思います。子どものいる生活に慣れてきて、時間を見つけやすくなったのかも。有里枝さんが言うように、子育て事情の違いもあるかもしれません。周りからの見えない圧力を子育て事情と言っていいなら、私の周りにはそれがなくて、ポリティカルコレクトのようなものは存在するけど、パートナーと折り合いをつければ、周りが決めることではない、という社会は気持ち的に楽です。

別れていようが別れていなかろうが、男女関係なく、どちらか一方ではなく、両親がそれぞれの状況の元話し合って子育てをすることが当たり前の環境です。子育てに参加しないなら子どもとの時間やら信頼やら、その人自身が失うものが多いと考えている人がほとんどなので、できるだけ参加しようとします。育児に消極的な時があってもパートナーと子供との折り合いがついていれば、胸を張って消極的でいられます。

読書に関して言うなら、スウェーデンではディスレクシア(読み書き困難)への理解もあり、ほとんどの書籍が朗読されたものが売られています。そのため、本の朗読を聴く人も多いです。オーディオブックなど邪道だ、活字を追いたいのよ! と思っていたけど、車の運転中や作業中に聴けるので色気のない実用的な時間の使い方ですが、本を読むための時間は何かをしながら持ててしまいます。日本語の本は試してないけど、私にとっては、英語の本は読むより聴いた方がわかりやすい気もします。日本でもオーディオブックは増えているのかしら?

とはいえ、読書もしています。夫は仕事があると朝6時前に家を出るので、毎朝私が息子の分の朝食を作っています。今は夏休み中なので夫が朝食を作っていて、その最中に私は本を読んでいます。びっくりするぐらい朝食作りに時間がかかるので、ちょうどいいです。

これは夏休みと関係ないけど、夜もご飯を食べた後に、夫が食器を洗い、子どもをシャワーに入れ、歯磨きをさせて、トイレに行かせてから寝る準備ができたと私を呼びに来ます。その間の1時間半ぐらいは自分の時間が持てます。で、「おやすみ」と言ってハグしたらまた自分の時間です(笑)。子どもが5歳半になった時に夫に「この5年半、私がシャワーに一緒に入って、歯磨きして……ってやってきたけど、もう子どももほとんど自分でできるし、今後5年半は任せていいかな?」って言ってみたら、確かに!となって、私は食後のお世話を特にしなくていいことになりました。

これまでも、夫はシャワーのあと子どもの体を拭いたり、おむつをしたり、クリームを塗ったりしていたのだけど、一緒にシャワーして、歯磨きをさせていた、という実績が実を結んだ形になりました。あと2〜3年で息子は自分でなんでもできるようになると思うので、そんなお世話も必要なくなりますよね。

そしてなによりフリーランスの私には有給の夏休みがない、という「可哀想な状況」なので、仕事(という名の読書など)をする時間を余分に取れています。ちなみに、有給で4〜6週間夏休みを取る人たちに「夏休みにのんびりやりたい事ができなくて可哀想」とよく夏の風物詩のように言われます。今年もすでに3〜4人に言われました。フリーランスはこんな世間の慈悲の心と言いますか、同情をも背負って夏を乗り切っています。有里枝さんの夏休みはどんな感じですか? 仕事とプライベートは分けていますか? 私はその境界線がよく分からないのですが、有里枝さんはどうですか?

スウェーデンの首相の退任はね、不動産の市場価格化の件で揉めて、現政権が退陣へ迫られたんだけど、なんと、再び退任するはずの首相が戻ってくることになりました。荒れたように見せかけて元サヤです。今、友人が「正当な所有権」という題でストックホルム市の非営利賃貸アパートの民営化についてPh.D.論文を書いていて、その論文が本になるんだけど、私は表紙のイラストを描くことを頼まれて、そのスケッチを描いているところなの。スウェーデン語の論文を読むのはすごく難しいので、その友人に内容を説明してもらって興味深い話がたくさん聞けました。表紙のイラストはかなりプレッシャーだけど、スケッチばかりをしていた学生時代を思い出して子どもの寝た後に明るい空を眺めながら描いています。

有里枝さんの絵、いつか見てみたいな。

陽子

次回更新は9/1(水)の予定です。写真家の長島有里枝さんからのお返事です。 

山野アンダーソン陽子/Yoko Andersson Yamano

1978年生まれ。ストックホルムを拠点に活動するガラス作家。2007年スウェーデン国立美術工芸大学konstfack修士課程卒業。2011年、ストックホルム市より文化賞授与。2014年よりスウェーデンの国会議事堂内で作品が展示されている。2017年よりストックホルム市郊外のグスタフスベリへ、アトリエとガラス工房を移動し、ヨーロッパや日本を中心に世界各国で展示会を行っている。レストランやバーとのコラボレーションや食器メーカーへデザイン提供もしている。2018年より、静物画の中のガラス食器を考えるプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」を立ち上げ、スウェーデンや日本、ドイツの画家たちとともに作品制作をし、この夏スウェーデンで展覧会を開催予定。「暮しの手帖」でコラム連載も執筆中。www.yokoyamano.com

Text&Photo: Yoko Andersson Yamano
Edit:Kana Umehara