LIBRARY新しいファミリー映画2024.01.05

新しいファミリー映画Vol.27—山崎まどか

家族のカタチが多様になってきた近年、家族で楽しむファミリー映画もファミリーを描く家族映画も、いろいろで面白い。そんな“新しいファミリー映画”を、コラムニストの山崎まどかさんがピックアップしてご紹介します。

『ミツバチと私』(1/5公開)それぞれの葛藤を乗り越えて“わたし”を見つける

母親の実家を訪ねに、スペインのバスク地方に来た家族。髪の長い末っ子のアイトールは、見るからに繊細な子どもです。ココ(坊や)という呼び名も嫌がっています。緑豊かな土地に来ても、アイトールの気持ちは晴れません。泳ぎに行っても水着に着替えるのを嫌がり、トイレにこもってしまいます。

アイトールが心を開いたのは、養蜂場を営む親戚のルルデス。普段は打ち解けないアイトールも、彼女の前ならば川で泳ぎ、快活におしゃべりすることができます。その言動を見て、ルルデスは自分の姪でありアイトールの母であるアネに疑問を投げかけます。
「アイトールは自分のことを、女の子だと思っているんじゃないの?」
男とか女とか関係なく、ジェンダー・フリーに子どもを育ててきたとアネは主張します。
アイトールの様子に懸念を抱く祖母は、甘やかされて育ったせいで、混乱しているのだと言います。
「ちゃんと(男女の)線引きをしてあげなさない」
「8歳で性自認なんて早すぎる」。親戚の集まりにドレスを着てきたアイトールを見て父親は激怒します。
アイトールの周囲の人々の反応は、自分の性に悩む子どもをめぐる現実の議論を反映していると言えます。

いろんな意見があると思いますが、私の胸を打ったのはルルデスの言葉です。
「子どもが自分を恥ずかしいと思っているなんて、間違っている」

「生まれ変わったら、女の子になれるかな?」
ルルデスは悩むアイトールを抱きしめて、生まれ変わらなくてもいいのだと教えます。

自分の信仰を貫いた聖ルチアを知って、彼女のように生きたいと願うアイトール。悩める子どもにとって、この世界が少しでも優しい場所でありますようにと祈るような作品です。

アイトールを演じたソフィア・オテロは撮影当時9歳。揺れ動く子どもの心境を自然に表現して、ベルリン国際映画祭で主演俳優賞を最年少で受賞しました。この映画祭で、男優/女優という性的な区別のない初めての賞です。こうしたことが、アイトールのような子どもが呼吸しやすくなる世界を作っていくのかもしれません。

『ミツバチと私』
監督・脚本:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
出演:ソフィア・オテロ パトリシア・ロペス・アルナイス アネ・ガバライン
配給:アンプラグド
© 2023 GARIZA FILMS INICIA FILMS SIRIMIRI FILMS ESPECIES DE ABEJAS AIE
2024.1.5(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開公式ホームページ

コラムニスト
山崎まどか

15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』『ノーマル・ピープル』(共にサリー・ルーニー著/早川書房)等。

Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando

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