LIBRARY新しいファミリー映画2022.09.22

新しいファミリー映画 Vol.14—山崎まどか

家族のカタチが多様になってきた近年、家族で楽しむファミリー映画もファミリーを描く家族映画も、いろいろで面白い。そんな“新しいファミリー映画”を、コラムニストの山崎まどかさんがピックアップしてご紹介します。

時間を飛び越えて“母”と出会えた『秘密の森の、その向こう』(9/23全国順次公開)

もし、時空を超えて若い頃の自分の母親に出会えたら、どんな言葉をかけてあげられるだろうか。そう思う人は少なくないかもしれません。ファンタジーでは度々見られる設定です。このセリーヌ・シアマ監督の新作でも、少女である娘が自分と同い年の頃の母親と不思議な邂逅を果たします。主人公のネリーは8歳。そして母のマリオンも8歳。幼い少女同士に不思議な絆が生まれます。

ネリーが思いがけなく小さな頃の母と出会うのは、祖母が亡くなったときのことでした。ネリーと両親は祖母と母マリオンがかつて暮らしていた森の近くにある小さな家を片付けるために訪れていたのですが、思い出に耐えきれなくなったのか、母マリオンはネリーと父を置き去りにしてどこかに出奔してしまいます。でも、ネリーがボールを探しに森に入って見ると、そこには隠れ家を作っている8歳のマリオンがいたのです。彼女に導かれて行ったのは、まだ祖母が生きている頃のマリオンの実家。森を挟んで、ネリーはふたつの時空を行き来します。

ボードゲーム、大人びたお芝居の真似事、隠れ家作り、湖でのボート遊び。ネリーとマリオンが一緒に遊んでいる姿は、それだけで胸を締めつけるものがあります。幼いネリーは、母マリオンが隠し持っている悲しみが気がかりでした。恐らく彼女にとって、こんなにマリオンを身近に感じられたのは初めてのこと。そしてマリオンにとっても、自分が抱えている感情を本質的に分かってもらえたのは今までになかったこと。ネリーがマリオンに大きな秘密を打ち明けた後、その先にある少女同士としての母と娘の会話は感動的です。

ネリーとマリオンを演じるのはジョセフィーヌとガブリエル、双子のサンス姉妹。お互い、無理して何かを演じるのではなく、自然と打ち解けあっている姿にふたりの絆を感じます。母と娘、そして祖母まで連なる、家庭の中の女性たちの親密な関係が、美しいおとぎ話として浮かび上がってきます。

『秘密の森の、その向こう』
大好きなおばあちゃんが亡くなってしまった。8歳のネリーは両親と共に森の中の祖母の家を訪れ、祖母の遺したものを片付けるのを手伝う。そこは母マリオンが子ども時代に暮らした家でもあった。静かな悲しみに暮れる母と娘だったが、ネリーが起きると母は祖母の家を出てどこかへ行ってしまっていた。その日、ネリーは森の中で同い年の少女と出会う。彼女はマリオンと名乗り、家に遊びにおいでと誘ってくれるのだが、その家はネリーの「おばあちゃんの家」だった。時間を超え出会った母と娘。心を通わせ親友となった二人が過ごす時間は夢のように美しい。
監督/脚本:セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』
出演:ジョセフィーヌ・サンス/ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、マルゴ・アバスカル
9月23日(祝・金)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
© 2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
配給:ギャガ
公式サイト

コラムニスト
山崎まどか

15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』(サリー・ルーニー、早川書房)等。

Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando

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