A Sense of Wonder「苦手と出会う時」

子どもの世界は、驚きや不思議にあふれています。日々、子どもたちはそれらの扉をひとつひとつ開け、自分なりの解を得ながら成長していきます。その扉を子どもはどんなふうに見つけ、また開けるのか? その時、大人はどう寄り添う? 今回は「苦手」という意識を持っている子どもたちに届けたい思い。「無駄づくり」と称して“不必要なもの”を作る活動を展開している、コンテンツクリエイター・文筆家の藤原麻里菜さんに綴っていただきました。

 苦手なことが多いからすべてが嫌いだった。学校の勉強についていけなかったのでずーっと寝ていたし、コミュニケーションが苦手なのでクラスメイトと話すのも嫌いだった。手先は不器用で、何かを作れば下手だと馬鹿にされる。そんな中での好きなことは妄想である。シルバニアファミリーの家を舞台にポケモンの指人形を役者として揃えて、戯曲を作っていた。可憐なニョロゾを取り合うピカチュウとミュウツーの話なんかは、シェイクスピアを超えていた。指人形を動かして、妄想をアウトプットしていると、だんだんと道具が必要になってくる。「井戸が必要だ」と思ったので、紙粘土で井戸を作った。「ふりふりの服が必要だ」と思ったので、レースを切って手縫いで衣装を作った。そんなふうに、頭の中にあるものを実現する中で必要になってくるものを作るようになった。

 私は現在、「無駄づくり」という無駄な道具を作るプロジェクトをしており、それによってお金を稼いでいる。妄想を手を動かして形にするという点で、小さい頃から好きだったことを仕事にできているのでとても運がいい。けれど、思いついたものを作るために、電子工学やプログラミング、物理などの知識が必要になってくる。さらには文章を書く仕事もしているので、文学の知識や語彙力なんかも大切だし、海外の会社と仕事をすることもあるので英語や中国語も最低限は必要になってくる。

 子どもの頃、「こんなもん何の役に立つんだ!」と蹴っ飛ばしていた教科書たちが、今はとても大切なものに思える。苦手意識のあった理系分野も、興味を持って学べばけっこう楽しい。小学生の時の自分が耳を塞いで逃げるような難しいことも、今なら朝飯前である。

 また、私は小規模法人の代表なので、さまざまな取引先とコミュニケーションをとって仕事を進めなくてはいけない。ヘコヘコしたり、強気に出たり、自分の気持ちを伝えるのには少しコツがある。「天気がいいですね」とかいうどうでもいい会話に、以前は「うるせーよ!」という態度をとっていたけれど、今は「そうですね。来週は寒くなるみたいですよ」などと、どうでもよさを重ね塗りすることもできるようになった。今、私が小学校に入学したら、きっとプロフィール帳が1 冊では足りないくらい友達ができることだろう。

 私は好きなことを仕事にしている。しかし、それは嫌いなことや苦手なことをやっていないわけではない。好きなことを仕事にするためには、ずーっと苦手に思っていたことと対峙しなくてはいけない瞬間が来る。勉強もコミュニケーションも、たしかに今でも苦手ではあるけれど、学校に通っていた時と比べたら、かなり好きだし楽しくできている。

 今は、個人での制作を続ける傍ら、私のように工学系に苦手意識を持っている子どもや大人に向けてワークショップなどもやっている。「計算苦手だからできないと思う」とか「不器用だからできない」という人に向けて、「簡単だよ~」「面白いよ~」「まりなでもできたんだよ~」と言い続けている。

 渡れない大きな川がある。でも、体が大きくなったら渡れるかもしれない。川を安全に渡れるような道具が突然手に入るかもしれない。川の向こう側には面白い景色があるよと興味をかき立てられ、勇気を持って飛び込むこともあるかもしれない。自分の成長や他者によるサポートによって、できないことや苦手なことを諦めずに、自分の人生の範囲を広げることができるのだ。

 だから私たちは道具を作ってあげたり、川の水を温かくしてあげたり、川の向こうで待ってあげたりして、できればたくさんの人が、この川を渡ってきてくれるように努力したい。みんなが渡れる橋を作ったら簡単だけれど、できれば頑張って川を渡ってきてほしい。苦労して大きな川を渡ることもまた、ひとつの人生の楽しさだからだ。

コンテンツクリエイター・文筆家
藤原麻里菜

1993 年生まれ。頭の中に浮かんだ不必要なものを何とかつくり上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。2013 年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。現在に至るまで200 個以上の不必要なものを作る。2018 年、国外での初個展「無用發明展ー無中生有的沒有用部屋in 台北」を開催。2万5000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019 年度」採択。2021 年Forbes Japan「世界を変える30 歳未満の30 人」 選出。青年版国民栄誉賞TOYP 会頭特別賞受賞。fujiwaram.com/

Text: Marina Fujiwara
Illustration: Yuki Maeda
Edit: Sachiko Kawase