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A Sense of Wonder「いのちと出会う時」
子どもの世界は、驚きや不思議にあふれています。日々、子どもたちはそれらの扉をひとつひとつ開け、自分なりの解を得ながら成長していきます。その扉を子どもはどんなふうに見つけ、また開けるのか? その時、大人はどう寄り添う? 今回は、子どもといのちの出会いのこと。ペットを飼うということはいのちを迎えること。動物愛護の活動にも参加しているエッセイストの石黒由紀子さんに、生き物と暮らすということについて綴っていただきました。
「犬が飼いたい」「猫と暮らしたい」
ある日、突然言いだす子どもたち。きっかけはさまざまです。友だちの家のペットがうらやましい、公園に捨てられた(と思われる)猫を見つけた、駅前のペットショップでかわいい子犬と目が合った……。例えば子犬。ふわふわな被毛につぶらな瞳、こんな子がうちにいたら毎日が楽しくなるに違いない。朝は公園に散歩に行き、夜は一緒に眠る。夏には一緒に泳ぎたい。子犬のそのいたいけな姿を見れば「この子のためならなんだってできる」と思える。「ちゃんと責任を持って世話をする」そう心から誓う。
でもね、もう少し想像してみて。犬の平均寿命は15歳、猫は20年くらい生きるのです。その15年後、20年後、あなたはどんなふうに暮らしているかな。今、あなたが8歳なら、子犬が15歳になった時には23歳。あなたはどんな人になっているだろう。犬は歳をとってあまり動けなくなっているかも。それでもちゃんと面倒を見ることができているかな?毎年、夏休みやお正月に旅行に行くよね。家族旅行に犬を連れて行くのは難しいかも。そんな時はどうする?震災の時は一緒に避難できるかな。動物も病気になることがある、お金もかかる。
私なら、ペットを欲しがる子どもにこんなふうに問いかけます。そして話し合う。クリアできないことがあれば、今はまだ迎えるタイミングではないのかもしれません。以前より減っているとはいえ、人間の都合で捨てられたり飼育放棄される動物が今もたくさんいます。その反面、ペットショップにはいつもいろいろな種類の生後数ヶ月の犬や猫やうさぎがいて、お金を出せばすぐ買える。お金のためにいのちをどんどん産み増やす現実もあるのです(ブリーダーや繁殖業者など)。なんだかおかしいと思いませんか。ペットは買うのではなく迎えるもの、飼うのではなく家族として一緒に暮らすもの。
ペットを迎えると決めたら、ペットショップからではなく地域の動物愛護センターや団体で保護されている動物たちを迎えるという選択肢があるということも、忘れないでいてください。
今年の1月、私の愛犬・センパイ(豆柴のメス)が18歳と4ヶ月で旅立ちました。ずっと健康な犬でしたが、晩年の約4年は後ろ脚が立たなくなり車椅子での生活。認知症のような症状も出て、吠え続けたり家の中を徘徊したりする時期もありました。
そうなると暮らしの基準はセンパイ。少しでも安心できるようにと、夜は私の胸に乗せて寝ていました。だから常に睡眠不足。旅行どころか外出もままならない。そのために仕事のスケジュールを変えることもしばしば。次々起こる問題に、ロールプレイングゲームで「このステージをどうクリアするか」的な気持ちになり、試行錯誤の日々でした。それでも犬生を看取ることができたのは幸せでした。今は濃厚なデザートをたっぷり味わったような余韻の中にいます。まだまだ寂しいですが、こんな気持ちを味わえるのもまた、動物と暮らす醍醐味。センパイとの暮らしはこれまでの私の人生のメインイベントだったといえるでしょう。犬を育て面倒を見ているような気持ちになっていましたが、ともに遊んで学び、育てられていたのは私の方でした。犬は人間の約4倍の速さで生き抜きます。生後4ヶ月で迎え、子どもの世話をしているような気持ちでいましたが、気づけば同世代の頼れる親友同士のようになり、いつしか親を介護している感じになりました。時間は残酷ですが、だからこそ、人が動物と暮らすことができるのです。
動物と暮らすということは、そのいのちに責任を持つということ。子ども時代にいい出会いをし、ともに成長できたら、その経験はその子にとって、何ものにも代えがたい一生の宝ものとなるはずです。
石黒由紀子
女性誌や絵本雑誌のライターを経てエッセイストに。雑誌やウェブサイトなどさまざまな媒体で執筆活動を行い、ペットのことや日々の暮らしについて綴る。「FreePets~ペットと呼ばれる動物たちの生命を考える会」のメンバーでもあり動物愛護に関する活動にも参加している。著作に『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』シリーズや『猫は、うれしかったことしか覚えていない』『楽しかったね、ありがとう』(すべて幻冬舎)など。Instagram:@yukiko_ishiguro_
Text: Yukiko Ishiguro
Illustration: Yuki Maeda
Edit: Sachiko Kawase