「会話する音 ハッピー・ジャム」ワークショップ体験レポート

アウトドアからアートまで、各地でさまざまなイベントが行われた夏休み。子どもたちはどんなことを体験し、どんな気づきを日常に持ち帰っただろう。たとえば8月25日(金)に都内で開催されたワークショップ「会話する音 ハッピー・ジャム」では、子どもたちは音楽の多彩な広がりを体験し、リズムや音で自由に表現する喜びを持ち帰ったはずだ。
これは、昨年夏から始まった「SAYEGUSA &EXPERIENCE」のプログラムのひとつ。「私たちのプログラムは、先生が教えたり子どもたちが学んだりするためのものではないんです。子どもたちが自ら参加して自由に楽しんで、一生の思い出になるような体験を共有するもの。私たちはそういう体験をしてもらえる最良の機会を提供したい」と、主宰するギンザのサヱグサの代表取締役社長・三枝亮さんはその思いを話す。

自分で作ったパーカッションで“ブン・チャ・ブン・チャ”
今回「SAYEGUSA &EXPERIENCE」が提供した「ハッピージャム―会話する音―」がどんな“機会”だったかご紹介しよう。
ナビゲータは日本ジャズ界のレジェント、ピアニストの佐藤允彦さん。佐藤さんと一緒に音で表現する楽しさを教えてくれたのは、ボーカリストの上杉亜希子さんとパーカッショニストの相川瞳さんのお二人。ワークショップは彼らプロのミュージシャンによるセッションから始まった。

セッション後、相川さんの叩くカホンやジャンベなどの打楽器について説明してもらったら、親子10組20名の参加者がそれぞれ自分のパーカッションを作る。持参したペットボトルや缶、カップなどのなかに、これまたそれぞれが考え抜いて持参した「音の素」を入れる。例えば豆各種や植物の種、ビーズやビー玉にマカロニ……などなど。やがて会場となった霞町音楽堂(東京都港区)に、シャカシャカ、ドコドコ、ガチャガチャと多彩なパーカッションの音が響き始めた。

「じゃあ、大人と子どもでリズムを分担して演奏してみましょう!」
と、佐藤さんたちのリードのもと、さまざまな曲に合わせてオリジナルパーカッションでリズムを奏でる。“ブン”が大人チーム、“チャ”が子どもチームだ。「聖者の行進」では“ブン・チャ・ブン・チャ”とまず簡単なリズムで。トルコの古い行進曲「ジェッディン・デデン」では、“ブン・チャ・ブン・チャ・ブン・チャチャチャッチャ”に進化。そしてボサノバのスタンダード「サマーサンバ/ソー・ナイス」では、“チキチキ・ドン・チキチキチキ・ドンドン”という複雑なリズムに挑戦(“チキチキ”が子どもチーム、“ドン”が大人チーム)。佐藤さんの踊るようなピアノと上杉さんのびやかな歌声に、相川さんのリードで刻むみんなのリズムが重なる。子どもたちはご機嫌でマイ・パッカーションを振ったり叩いたりしてリズムを生み出す。最初は恥ずかしそうだった大人たちもだんだんにノッてきた。

自分の音を響かせてみんなで会話すると音楽が生まれる!
佐藤さんは近年、世界の民族音楽にピアノを合わせるプロジェクトを行なっている。その佐藤さんが子どもたちに紹介してくれたのがペンタトニックだ。私たちが普段耳にしたり学校で習ったりする西洋音楽は7つの音階を持つが、アフリカなどの民族音楽の音階は5つ。ペンタとは5を表わし、ペンタトニックとは5音から成る音階のこと。「西洋音楽のような半音もなく、シンプルで自由。どの音に飛んでもいいんです。間違いはないんです」という佐藤さんの説明を体験すべく、水の入ったボトルで作られたペンタトニックを割り箸で奏でてみることに。2セットの音階に2組の親子が順番に向き合う。
誰かが叩いた音に反応するように、誰かがまたボトルを叩いて音を出す。「相手のリズムを聞いて反応し、組み込んでいくことを考えてみてください」と佐藤さん。すると、4人が奏でる音が自然と呼応しあって不思議なメロディになる。速くなったりゆっくりになったり、相手のリズムにのったり全然違うリズムで返したり。楽譜も指揮もなくても、一人が生み出す音に別の人が音を返し、まるで会話をするように音楽が生まれた。

「瓶を叩いて音を出す」「誰かと一緒にやることで意図せず音楽が生まれる」というペンタトニックでの即興演奏体験は子どもたちにも強い印象的を残したようで、休憩時間にも子どもたちはペンタトニックのボトルのまわりに集まって自由に奏でていたのが印象的だった。
他にも、水を叩くことで生まれる音とリズム「ウォーター・ドラミング」の紹介や、童謡「ぞうさん」をそれぞれ好きなリズムや好きな節で自由に歌うのに不思議にハーモニーが生まれる合唱など、佐藤さんのナビゲーションで多彩な音体験をしながら、気づけば3時間近くが過ぎた。誰一人飽きてしまうことなく、みんなで音楽の楽しさを味わうことができた素敵な時間だった。

最後には圧巻のステージ! 佐藤さんのピアノと相川さんのパーカッションの掛け合いが圧倒的な迫力を持ってせまってきた「キャラバン」。大人も子どもも息を呑んで聞き入ったあとは、佐藤さんと上杉さんによる「ドラえもんinニューヨーク」。これは、お馴染みの「ドラえもんの主題歌」から始まり、「かもめの水平さん」や「證誠寺の狸囃子」などの童謡、そして北島三郎の「与作」からアメリカン・ポップスの「ヘイ・ポーラ」、ミュージカルの名曲「シンギン・イン・ザ・レイン」……と洋の東西のスタンダードをつなげ、フランク・シナトラの「ニューヨーク・ニューヨーク」で終わるもの。演奏の素晴らしさもさることながら、印象もジャンルも異なる曲たちを混ぜ合わせてすばらしい一つの曲になっていることに驚かされた。

プロフェッショナルと一緒に音を奏で、プロフェッショナルの音を浴びたワークショップ。終了後も子どもたちはナビゲーターの佐藤さんや上杉さん、相川さんたちにサインをもらったりおしゃべりしたり、帰り難い雰囲気に満ちていたことが、その楽しさを何よりも物語っていたように思う。

子どもたちが感性を広げるさまざまな体験の場を
「SAYEGUSA &EXPERIENCE」ではこのあとも「独自のテーマ×ナビゲーター×場所」で、子どもたちがの感性の翼を広げる真の体験を届けるプログラムを予定している。9月16日(土)~18日(月・祝)には、縄文時代の暮らしぶりを体験する「縄文時代にタイムスリップ2023」を開催予定。現在参加者募集中!(9/5火曜日まで) 興味のある人はぜひ「SAYEGUSA &EXPERIENCE」の詳細ページをチェックしてみて。(FIN)

Photograph: Ko Tsuchiya
Text: MilK JAPON