「〈プチバトー〉の服は、1枚で5つの人生を知る」と言われる。つまり、年上の子から年下の子へ受け継がれて5人が着るということ。実際に検証するのは難しいが、小さな船のロゴがあしらわれたアイテムの耐久性は業界トップクラスを誇る。高い耐久性、流行に左右されないデザイン。そのアイテムは世代を越えて着続けられ、伝統とノウハウと技術革新が織り成すストーリーを語り継いでいる。
子ども服業界におけるフランスの至宝〈プチバトー〉は、2023年に創業130年を迎えた。その歩みはアンダーウェアの製造に始まり、1918年に「プチ・キュロット」と呼ばれる現代のショーツの原型を生みだしたことで大いなる冒険に漕ぎだす。1世紀以上にわたり培われてきたニット編みのノウハウと数々の技術革新は、このブランドの大きな遺産であり礎となっている。
これまでもこれからも、人と地球に心地良い製品
伝統ある〈プチバトー〉の秘密を探るため、フランス北東部のトロワに向かった。ここはこのブランドの本拠地であり、1893年に建てられたサン・ジョセフ工場がある場所だ。職人や労働者の守護聖人の名を冠したこの工場は、今なお現役で稼働。ここでは、コットン糸の検品から最終製品にいたるまで、あらゆる製造ラインが管理されている。また、編み、染め、近年導入されたデジタルプリント、裁断、縫製のすベてに卓越した技術が用いられ、高い耐久性を誇る製品が完成する。
「私たちの歴史とDNAはすべてここにあります」と、工場最高責任者のジャン=マルク・ギュメは言う。
「このような生産モデルを持つ会社は、フランス、ひいてはヨーロッパ全体を見ても、私たちが最後です。テキスタイルの分野では私たちのような会社はもう存在せず、だからこそ唯一無二でいられるのです」
年間に製造される2000万点のうち、フランス国内での販売は50%以上を占める。何世代にもわたり、フランス国民の心をつかみ続けている証だ。「フランス人なら、誰もが『〈プチバトー〉を着て育った』という実感があります。製品の素晴らしさだけでなく、多くの人から愛され、親しまれているブランドなのです」そのものづくりの秘密。それは徹底した品質管理だ。糸に関しては、収穫から紡ぎ直しまで実に平均19回の検査が行われている。そしてもう一つの秘密は、非常に高性能な機械にある。
「私たちのチームは、機械の性能を限界以上に引きだしながら、よりスピーディに、よりタイトな編み地を作ることに成功しました」
職人たちの技術的な側面に加え、〈プチバトー〉が自ら掲げた目標を実現するには、高い性能を持つ設備が不可欠だ。現在は野心的な「ミッション003」を掲げ、2030年までに、工場での水の消費量とCO2排出量を95%削減(2019年比)することを目標としている。こうした高性能な設備があって初めて、デザイン部門の描いた夢を製品化することができる。
受け継いだアイデンティティーを発展させて
「私のヴィジョンは、このブランドの歴史とDNAを再びコレクションの核にすること。定番でアイコニックなアイテムにひねりを加えながら、ワードローブに欠かせない重要なアイテムとして再提案しています」
そう語るのは、新たにデザイン部門のディレクターに就任し、約20人のスタッフを率いるリディ・ド・ボープレ。彼女が初めて手がけたシリーズは、2025年春夏コレクションとして発表されている。そこには、キュロット、Tシャツ、ヨットパーカ、ボディ肌着などの定番アイテムに、1×1リブ編み、ポワンココット、ピコレースといった象徴的な素材や仕上げが取り入れられている。
「私たちの探究と進化の舵を取るのは、何よりも着心地の良さと遊び心です。〈プチバトー〉が大切にしている楽観主義を生かしながら、奥行きのあるカラーバリエーションに取り組んでいます」
そして〈プチバトー〉らしい“ちょっとした寄り道”も忘れてはいけない。「原点回帰」と題された彼女の最初のコレクションは、原点となるボーダーと原色を強く意識したものになっている。「でもそれだけではありません」とリディは強調する。ヨットや航海といった海のイメージが前面に打ちだされているからだ。
「この〈プチバトー〉のアイデンティティーをさらに発展させたいと考えてます。独自のエスプリを受け継ぐべく、まずは水兵のユニフォームから生まれたマリニエールボーダーの商品開発から取り組みました」
2023年、〈プチバトー〉はフランスのEPV(無形文化財企業)ラベルを授与された。ビジネスと製品の高性能化に取り組む1000社以上のメーカーとともに、その卓越した専門知識が認められたのだ。そこには確固たる自信がある。「商品開発にかなり時間をかけることもありますが、だからこそ長持ちするアイテムが生まれます。これこそが“現代性”なのです」時代を超えるデザイン、そして専門知識に裏づけされた耐久性。この唯一無二のマリアージュが〈プチバトー〉の強みだ。長年このブランドを愛するファンに向けて、新たなスタイルを提案しながら、決して古びることのないアイテムを提供し続ける。そうやって時とともに新たな歴史が紡がれていく。〈プチバトー〉が届ける愛は、はかなく消えるものではない。世紀を越えていくのだ。
Photograph: Oliver Fritze
Text: Justine Villain
Translation: Kumi Hoshika
Edit: Sachiko Kawase