家族のカタチが多様になってきた近年、家族で楽しむファミリー映画もファミリーを描く家族映画も、いろいろで面白い。そんな“新しいファミリー映画”を、コラムニストの山崎まどかさんがピックアップしてご紹介します。
母と娘の風変わりな逃避行『KIDDO キドー』(4月18日公開)
ルーはオランダの児童養護施設で暮らす11歳の少女。彼女のママ、カリーナはハリウッドのアクション映画で活躍する女優だと信じています。そんなルーの元に、古い車に乗って唐突に母のカリーナが現れます。
ホットパンツとカウボーイブーツの似合うクールなカリーナは自分の娘を施設から勝手に連れ出すと、ポーランドの祖母の家に行くと宣言します。電話で施設のスタッフに事情を説明しようとするルーを制して、カリーナは一言。「これは誘拐なのよ、お嬢ちゃん(キドー)」。
ルーの豊かな想像力のおかげもあって、母と娘の逃避行は高揚感に満ちています。花柄のスーツケースを持って、大きなテディベアとルーのペットである蛇のヘンクを連れたこの旅は、少女にとっては“冒険”なのです。ウィッグをつけて変身するのも、ロードサイドの安手のモーテルに泊まり、夜中に抜け出して誰かのバースデーケーキを食べてしまうのも、ファミリーレストランで無銭飲食をして、バイクに追いかけられながら車で逃走するのも、ママと一緒ならば楽しい。
でも、大人の目で見ると、この道行きには何だか不安な予感もあります。「人生はゼロか100」が口ぐせのカリーナは、どうやら精神のバランスを崩している様子。彼女は時々、大声で叫ばずにはいられません。祖母の家に行く目的も謎で、この旅行にも何だか訳がありそうです。
カリーナはルーに言います。「私たちはボニーとクライドなんだよ」映画『俺たちに明日はない』(1967年)の題材となった二人組の強盗の名前にときめくルーに、旅先で出会った大人びた少年が言います。「あの二人は最後、死んだんだよ」。
親子の危険な旅をファンタスティックなものにするのは、二人の空想力。夢見がちなのは、きっとルーがカリーナから受け継いだ資質なのでしょう。つらい現実を、一瞬でも忘れるためです。
ポーランドまでの旅で、母の事情を知ったルーは言います。「ゼロか100じゃなくていい。ちょっとでいいの」。ずっと一緒にいられなくていい。ずっと私のお母さんでいられないのなら、時々でいい。そんな切ない気持ちが伝わるルーの言葉と、子どもらしいやさしさに、カリーナも、観客の私たちも、どこかで救われる思いがします。

『KIDDO キドー』
監督:ザラ・ドヴィンガー
出演:ローザ・ファン・レーウェン、フリーダ・バーンハード
4月18日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、京都シネマほか、全国順次ロードショー
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山崎まどか
15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』『ノーマル・ピープル』(共にサリー・ルーニー著/早川書房)等。
Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando