Lifestyle magazine
for modern family

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DATE 2020.01.10

そんなふう 60

九州出身、もしくは現在住の友人が多い。東京でわりと大人数で食事をしていて、一緒にその場にいた全員が自分以外九州出身者だったりすることもよくあることだ。

夫も天草出身で、現在も義母が住んでいる為年に数回は訪れる。先月初旬にも仕事の関係もあり、久留米、大分、熊本と1週間かけて滞在した。

久留米は初めてだった。あるプロジェクトのために、友人と彼女の故郷の町を歩きながら撮影することになり、一緒に訪れたのだった。

 

到着した日の夕方、福岡空港からはバスで向かった。そろそろ目的の停留所に着きそうになった頃、日も暮れて帰宅時間と重なったせいか渋滞で少しずつしか進まない。車幅の狭い道路をのろのろと進むバスの車窓から見える風景は、住宅やコンビニばかりでとくに面白い景色ではなかったが、娘はじっと窓の外を眺めていた。そして急に、わたしあそこに行ったことあるよ、とある建物を指差した。そうなの?と適当に相槌を打っていたら、少し進むと今度は対向車線側の建物を指差し、あそこも行ったことある。それであっちのお家に住んでたの、赤ちゃんのとき。と言い出した。九州は縁が深いからなあ、前世かなあ、と夫と顔を見合わせた。少し進むともうなにも言わなくなったので、あの地域だけ確信的に話していたから、そんなこともありうるかもしれないねと笑い合った。

ホテルに到着し、まずは晩御飯を食べようと、近場の飲食店で良さそうなところをいくつか電話してみた。金曜で忘年会シーズンということもあり、10軒以上電話したけれど、どこも満席だった。あとから知ったことだが、久留米の飲食店は近年人気らしく、いつも賑わっていて、福岡市内からも食事だけのために訪れる人が多いそうだ。それでもなんとか10数軒めに空席がある店を見つけて行ってみた。焼き鳥と餃子の店で、そこも店内は満席だったがビニールで囲われた店先に置いてあるテーブル席がひとつだけ空いていた。寒いかもしれませんが、ストーブつけますので、中の席が空いたらすぐにご案内しますね!とはきはきと若いお兄さんが接客してくれた。お店で食事できるだけありがたかったし、屋台のような雰囲気も旅情感があってよかった。結果、福岡ならではの小さな餃子も食べられたし、メニューは少ないながらも全部美味しかった上に値段もとても安価で大満足だった。お店の方々の接客も素晴らしく気持ちがよくて、普段の生活ではなかなか味わえない時間を楽しめた。

 

翌日、天気にも恵まれて撮影は順調に進んだ。友人が幼少期、思春期に過ごした町を彼女の思い出話を聞きながら歩いていると、同じようにかつての自分を思い出し、一緒にタイムスリップしたような気持ちになってきた。自分は大阪で育ったから物理的な距離は遠い場所だけど、記憶が蘇ったせいか、自分もいつかの過去にここに住んでいたような錯覚さえ湧いて来た。昔この町で、先の未来で自分の娘になるであろう誰かや、いま一緒にいる友達になるはずの誰かとすれ違ったこともあるのかもしれない、と妄想しながらその日を過ごし、見事に焼けた夕陽を見ながら1日が終わることに安堵した。

BACKNUMBER 川内倫子 そんなふう
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