LIBRARY新しいファミリー映画2022.04.19

新しいファミリー映画 Vol.9—山崎まどか

家族のカタチが多様になってきた近年、家族で楽しむファミリー映画もファミリーを描く家族映画も、いろいろで面白い。そんな“新しいファミリー映画”を、コラムニストの山崎まどかさんがピックアップしてご紹介します。

『カモン カモン』(4/22より全国公開)子どもとのふれあいで気づかされるのはいつも大人

マイク・ミルズ監督の新作の主人公は、伯父と甥のコンビ。ホアキン・フェニックス演じるジョニーはラジオジャーナリスト。 現在は全米各地の子どもたちのインタビューを収録しているところです。彼には母親の介護問題をきっかけに疎遠になってしまった妹のヴィヴがいます。ヴィヴの息子のジェシーは9歳。想像力が豊かで繊細な男の子です。とある事情でジョニーはジェシーの面倒を見ることになるのですが、ヴィヴが当初の予定通りに家に帰ってくることができず、ジョニーは妹の家があるロサンゼルスを離れて、彼が暮らすニューヨークへとジェシーを連れていかざるを得なくなります。ジェシーはジョニーの録音機器や初めての街に興味津々ですが、急に塞ぎ込んだり、わがままを言いだしたり。仕事ではたくさんの子どもたちの話を聞いているジョニーですが、自分の甥の言動が意味するものが読めず、当初は戸惑います。時にお互いが分からなくなったり、諦めそうになったり、ぶつかったり。映画はロサンゼルスからニューヨーク、そしてニューオリンズへと至る二人の旅を追います。愛されたい、受け入れてもらいたいというジェシーの無言のメッセージをキャッチし、家族と離れていたジョニーは子どもを受け止める側の大人として、遅ればせながら成長していくのです。

ジャック・タチの『ぼくの伯父さん』(1958年)をはじめ、おじと甥の関係を描いた作品は数多くありますが、父母と違って少し距離がある関係の親戚から、子どもが自由を学ぶという物語が多い印象があります。この映画では、甥とのふれあいで変わっていくのは伯父の方。彼に気づきをもたらす存在であるジェシー役のウディ・ノーマンの演技に心を奪われます。ナイーヴな子どもが隠し持っている豊かな内面や無限の可能性を感じさせるのです。映画にはジェシー以外にもさまざまな子どもたちが登場し、将来のビジョンや自分たちを取り巻く問題に関するインタビューに答えていますが、彼らの言葉はまるで賢者のもののようで胸を打ちます。家族の関係性も、大人から子どもへの一方的なものではありません。ジョニーとジェシーが育んだ絆から、学べるものはたくさんあります。

『カモン カモン』
ニューヨークを拠点にアメリカ中を回って子どもたちにインタ ビューをしているラジオジャーナリストのジョニーは、妹のヴィヴから息子(甥)を数日間預かって欲しいと頼まれ、ロサンゼルスの妹の家に滞在することに。甥のジェシーは個性的で好奇心旺盛。ジョニーにストレートに問いかけ、困惑させる。ぶつかり合いながらかけがえのない時間を過ごし、ジョニーとジェシーは二人だけの絆を見いだしていく。デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズ......モノクロで捉えた街の景色の中で描かれる心の旅の物語。
監督・脚本:マイク・ミルズ
出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン、ほか
4月22日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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コラムニスト
山崎まどか

15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』(サリー・ルーニー、早川書房)等。

Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando

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