おいしいおはなし 第31回『若草物語』ジョーのための失敗しないブラマンジェ

 『若草物語』は、19世紀中ごろのアメリカを舞台にしたおはなしですが、21世紀の今読んでも、個性豊かな四姉妹の魅力は色あせることなく、長女のメグや次女のジョー、もしくは三女のベス、あるいは四女のエイミーの中に、自分と似ている部分を感じたり、知っている誰かの顔を重ねたりします。
 物語は、父が従軍して不在の1年間の、母と姉妹たちの暮らしぶりと、日々の事件を通して姉妹たちが成長していく様子が綴られたもの。彼女たちの学びが、ただの教訓話にならず、物語として読者の心をつかむのは、登場人物の性格描写のおもしろさです。
 特に、末っ子エイミーのおかしさったら! 飼っていたカナリアを死なせてしまって嘆き悲しんでいるベスに〈オーブンに入れてみたらどう。あたためれば生き返るかもよ〉(235頁)と、大真面目に提案したり、綴りや句読点の打ち方を間違えて怒られたことについて〈いろいろすることがあるのでしかたありません〉(354頁)と開き直ったり。作者自身も四姉妹だったそうですから、実際にあったエピソードが反映されているのかもしれません。

 四姉妹の母も素敵です。娘たちに体験させ、実感させてから、どうすべきか、何が正しいかを語り合う様子がしばしば登場します。あるときには、「やらなきゃならないことは何もしない、好きなことだけするお休み」という1週間を設けます。しまいには、家政婦のハンナにもお休みを出し、こんなふうに宣言して自分も出かけてしまいます。

「いるものは何なりと買って、いちいちわずらわせないでね。母さまは外でお食事するので、うちのことにはかまっていられないのよ。」というのが、ジョーに対するマーチ夫人の返事でした。「わたしだって、好きで家事やってるわけじゃありませんよ。今日は一日お休みをとって、本読んだり、お手紙書いたり、お友だちのところへ行ったり、たのしくすごすつもりよ。」(233頁)

 この母のストライキがとどめとなり、誰も働かない家の中はしっちゃかめっちゃか。お休みの1週間の始めに〈……遊びづめで働かないっていうのは、働きづめで遊べないっていうのとおなじくらい、つまらないものだってわかることと、わたしは思うけど〉(226頁)と母に予言されていたとおり、お休みに飽きた娘たちは、日々コツコツと働くことの大切さを実感するのです。
 このとき、特に悲惨だったのがジョー。お隣のローリーをランチに招き、台所で奮闘したものの、読むだにまずそうな料理のオンパレードを生み出します。料理の失敗といえば『赤毛のアン』でアンもやらかしていましたが、ふたりの少女の姿は、「みんな失敗しながら大人になるんだよね」ということを思い出させてくれます。
 このときのランチの中でも、エイミーが思わず吐き出したほどの失敗作がブラマンジェ。このレシピなら、砂糖と塩さえ間違えなければ、ジョーでもきっと、つるんとなめらかなブラマンジェをつくれるはずです。

〔材料〕

(120㎖程度のグラス6~7個分)
ブラマンジェ
 アーモンドミルク(無糖)  500㎖
 生クリーム 100㎖
 水 100㎖
 粉ゼラチン 10g
 砂糖 40g
いちごソース
 いちご 150g
 砂糖 20g

〔つくり方〕
  • いちごソースをつくる。いちごのヘタを取り除き、4等分のくし形切りにする。小鍋に入れて砂糖をふり、水分が出てくるまで15分ほど置く。弱火にかけて10分ほど煮詰め、冷蔵庫で冷やす。
  • 小さめのボウルに粉ゼラチンを入れて水を加え、湯煎にかけて完全に溶かす。砂糖も加えて溶かしたら、湯煎から下ろして粗熱を取る。
  • 大きめのボウルにアーモンドミルクと生クリームを入れ、2を加えてよく混ぜる。グラスに注ぎ、気泡があればスプーンなどですくって取り除く。冷蔵庫で1時間半ほど冷やしかためる。
    食べる直前、よく冷えたブラマンジェにいちごソースをかける。

ゼラチンを溶かす際は、ゼラチンに水を加えること。逆にすると湯煎にかけてもなかなか溶けず、仕上がりがぶつぶつになってしまうので注意!

『若草物語』
ルイザ・メイ・オールコット作、ターシャ・チューダー絵、矢川澄子訳(福音館書店)
舞台はアメリカ、南北戦争の時代。奴隷解放を掲げる北軍の牧師として従軍している父の無事を祈りながら、つましく暮らす母と四人姉妹の日々を綴った1年間の物語は、「プレゼントのないクリスマスなんて、クリスマスっていえるかねえ。」という次女ジョーのひと言から始まります。このあとには、「貧乏っておそろしいことね。」という長女メグのセリフが続きますが、貧しくともいかにして幸せに、豊かに暮らすかということを、姉妹たちは学んでいきます。そして、世間や周りの「こうあるべき」という常識に流されず、それぞれに自分らしい生き方を模索しながら成長していく物語です。

文と料理:本とごちそう研究室(川瀬佐千子・やまさききよえ) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子