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for modern family

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DATE 2018.10.29

第18回:長島有里枝より
写っているのは誰でもよかったのかもしれない。

女性は子どもを産むとみんな「はは」になる。当たり前のことだけど、みんなそれをどう受け入れ、日常を送り、自分の生き方を新たに手にするのでしょうか。この連載では、クリエイターとして活躍する二人の「はは」と「ハハ」に手紙をやりとりしていただきます。それぞれの悩みや愚痴、ときに葛藤、あるいは日々の喜びから、あなたや私の「はは」としての生き方のヒントがみつかるかもしれません。

長島有里枝さんから山野・アンダーソン・陽子さんへ。

 

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陽子さん

 

こんにちは。

 

1ヶ月が経つのって早いです。スウェーデンも冬に一足飛びのようですね。そして、夏と冬ではやっぱり睡眠時間が違ってくるんですね。思った通り! わたしがスウェーデンに住んだら、冬は1日10時間以上寝てしまいそうです。寝るのは得意で、雨戸を閉めた暗い部屋なら14時間ぐらいは寝られると思うんです。

冬が好きと言いづらい雰囲気があるお国柄って、興味深い。わたしはどの季節が好きだろう、と考えてみたけれど思いつきません。季節を感じて、いいなぁと思えるような生活が、できていないからかなぁ。

 

息子さんの誕生日、もうすぐですね。昨年のプレゼントだったお風呂ですが、食べたり飲んだりできるんですか? 茄子が好きとは伺ってましたが……アイデアが斬新すぎる(笑)。そして、それを叶えてあげるご両親はとっても素敵(わたしなんて、靴さえ自分の好きな色のものを買ってもらえなかったのに!)。

うちの息子は、陽子さんの息子さんみたいに面白いこと言わなかった気がします。誕生日が1月なので、クリスマスとお年玉と誕生日を抱き合わせにされないよう、大人と上限金額の交渉(3回分まとめて高額のものを頼んでいいかとか)はしていました。たいていは鉄道関連の物品やおでかけをせがまれてきましたが、ここ最近は自宅で作曲や録音ができる機材のプレゼントが続いています。興味の世界も、徐々に広がっていきますね。

 

ロンドンのお友達のところにいってらしたんですね。いいなぁ。10代の後半、お金を貯めては通った、わたしの青春の思い出の街です。たまに無性に行きたくなるけれど、いまは知り合いもいないし、ホテルも高いから行けません。前にも書いた気がするけれど、ヨーロッパの人は友達とよく政治の話をする印象があります。日本で、自分の政治的信条について友人と意見交換する機会はそんなにないんです。イギリス国籍を取得するために、女王の写真に向かって歌わなければいけない話、わたしも衝撃を受けました。近くても20世紀前半とか、そんな昔の話みたいで。いっぽうで、イギリス人には保守的なイメージ(伝統や格式を重んじる、諸外国を統治してきた自国の力を誇りとする)も持っていて、妙に納得する自分がいます。

 

いま、次の展覧会のためにまとめている作品が、その話とちょっとリンクするかもしれません。陽子さん、千人針ってご存知ですか? 第二次世界大戦のとき、日本の女性たちが、戦地に赴く大切な人のために作った腹巻のことです。14年前、わたしはこの千人針を題材に、女性にとっての戦争や、創造的な手仕事の裏にある悲しい歴史を考える作品を制作しました。これを再び展示することになって、いま、当時の記録映像を編集しています。戦争を経験したおばあさんたちに千人針のことを聞くインタビューでは、どの人も途中から、自分自身の戦争体験の話をします。そこに何度か、「御真影」についての話が出てきます。御真影というのは、昭和天皇や皇后陛下の肖像写真や、肖像画のことです。

 

太平洋戦争中、日本人は学校などに飾られていた御真影をもっとも大切にしなければならなかったそうです。当時小学生だった女性は、式典で先生がこの写真を飾るときは、みんな頭を深く垂れていなければならなかったと教えてくれました。教師をしていた女性曰く、戦禍の際、なにをおいても救い出されるべきなのは御神影だったそうです。女王陛下の写真に忠誠を誓う話は、このおばあさんたちの話をわたしに思い出させます。

 

1945年、敗戦を迎えると全国の御真影は回収、処分されたそうです。もし負けなかったら、日本人は御真影を捨てなかったんじゃないかと思います。兄弟喧嘩げんか程度の争いでも、勝ったほうは「自分が正しい」という思いを強化こそすれ、果たして自分は本当に「正しい」のかと省みることはそうないでしょう? 負けないということは、内省する機会が持てないということでもあるのかもしれませんよね。

 

写っているのは誰でもいいんじゃないかと思ってしまうのは、日本でもイギリスでもその忠誠心が、厳密に言えば被写体ではなく国家に対して誓われるものだからです。写真家として、そういうすり替えは被写体にとても失礼だと思うし、写真を権力の誇示や拡大に利用することも許せないなと思います。おばあさんの話を聞いて、人の命より写真が大切だなんておかしい、と現代に生きる日本人のわたしが思ったように、イギリス人は女王の写真と人の命を秤にかけたりはしないはず。でも、2つの写真には、どこか通底する役割があると思います。

 

移民になる人にもさまざまな事情がありますよね。陽子さんのお友達がおそらくそうであるように、選択の自由という思想に基づいて行動する人もいれば、自国を離れなければ命の危険に曝される、言い換えれば選択の余地のない人もいるでしょう。安全な場所で「普通」に暮らしたいと願う後者のような人々にとって、新しい土地のルールに慣れることも大切だろうけれど、まずは彼ら自身の日常と居場所を取り戻すことが優先されてほしいと思います。どのような宗教や思想も押しつけられず、自分の文化や信じるものを引き続き持ち続けられて、周囲にもそれを否定されないような暮らしがより多くの人のものになったらいいのに、と思います。そういえば、と本棚を漁ったら、バトラーとスピヴァクの共著『国歌を歌うのは誰か』が出てきました。これを機会に読み始めようと思います。

 

毎日、ビデオで戦争体験を語る女性と向き合っているからか、話がシリアスになりました。展示は11月の頭から来年の1月いっぱいまでやっているので、こちらに帰ってきたときには是非見に来てくださいね。連絡してください。

 

長島有里枝

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次回更新は11/9(金)の予定です。ガラス作家の山野・アンダーソン・陽子さんからのお返事です。