Lifestyle magazine
for modern family

Lifestyle magazine
for modern family

DATE 2018.08.16

第13回:山野・アンダーソン・陽子より
“西洋”の価値観を正しさだけで押しつけたくはない。

女性は子どもを産むとみんな「はは」になる。当たり前のことだけど、みんなそれをどう受け入れ、日常を送り、自分の生き方を新たに手にするのでしょうか。この連載では、クリエイターとして活躍する二人の「はは」と「ハハ」に手紙をやりとりしていただきます。それぞれの悩みや愚痴、ときに葛藤、あるいは日々の喜びから、あなたや私の「はは」としての生き方のヒントがみつかるかもしれません。

山野・アンダーソン・陽子さんから長島有里枝さんへ。

 

──────

 

有里枝さんへ

 

ああ、素敵! 本当にその通りなんです! 私、怖がって柔らかく書いた子育て問題をこんなに共感していただけて嬉しいです。ちなみに、初めの手紙で聞いてくださった、「私の感じる子育て」についてですが、アディーチェの「We should all be a feminists」は息子を持つ母親として子育てをする上でもとても考えさせられました。フェミニズムと言っても色々な種類のフェミニズムがあり、その濃さ? 強さ? も様々ですが、私のパートナーもフェミニスズムにとても興味があるのでうちではジェンダーの話もよくします。スウェーデンでは日本よりもフェミニストであることがはるかに当たり前のことで、ジェンダーに対する社会の加減も方向性もだいぶ違うと思います。私は、スウェーデン人の友人たちから比べると「フェミニスト」の「F」にも満たないかもしれませんが、日本に帰ると自分が強くフェミニストだと感じます。そして、気をつけてそれを出さないようにしているのも事実です。言い方を模索していると言ったら聞こえはいいですが、弱気だといえばそれまでです。

 

余談ですが、ある日、いつも通りにストックホルムのガラス工房で制作をし終えて片付けをしていたら、たまたま前を通った女性が工房に入ってきて、私と目があったにも関わらず、私のアシスタントのスウェーデン人男性に「今日は何を作っていたの?」と聞きました。彼は、私より3歳年上です。彼が、「僕が言っていいか分からないけど……」と言いながら私を見るのを見て、その女性は顔を真っ赤にして、「ごめんなさい、なんて私はバカなの! アジア人女性がアシスタントって勝手に決め付けてしまった自分が恥ずかしいわ!」と言いました。私が「そんなの全然気にしなくていいよ、よくあることだから。」と言うと、その人はそのよくある一人になったことが人生最大の汚点だと言って、何度も何度も謝ってくれました。その女性が出て行った後、アシスタントの男性が、「これで彼女も二度とこんな失礼なことはしないよ」と言いました。彼は、自分がアシスタントだと分からせるためにわざとオーバーにリアクションしてくれたのだとその時に気づきました。だって、そんなに内緒の制作なんてしてないですし。こんな毎日の些細なところにもフェミニストは潜んでいて、すっかり忘れがちなジェンダーの問題を改めて考えさせてくれます。

 

さて、「ものごとにたったひとつの物語しか与えないことの危険性について」ですが、そうなんです、本当に奥が深い話なんですよね……。西洋の価値観と大きくひと言で言うほど、“西洋”を一括りにしていいかわかりませんが、少なくとも私が体感するスウェーデンの子育ての価値観は有里枝さんもおっしゃるように「分からなくはない」んです。だって、子供を叩かないなんて、素晴らしいじゃないですか!ただ、西洋/スウェーデンの価値観をそれがどの状況においても正しいと押し付けられてしまうと、とっても腑に落ちないですし、正論を掲げて石頭すぎて、もう少し柔軟力と順応性を身につけられないものかと、もどかしいです。スウェーデンは移民をこれほど多く受け入れ、海外からの養子を受け、多民族化されているにも関わらず、単一化した「スウェーデン人」を作って民主主義を掲げます。民主主義は多数決ではないのに、マイノリティの文化や社会の価値観を消し去ってしまうのはどうなのでしょうね?確かにスウェーデンは簡単に書き出せば聞こえはいい理想的社会です。ジェンダーも人種も差別せず、環境を考え、産業廃棄物にもきちんと向き合い、世界基準で考えれば社会民主主義的な思想で、労働も1日8時間、有給で夏休み(4〜6週間)も育児休暇も取れて、子どもたちもデコピンすらされず、高い税金と権利のおかげで刑務所すらも安泰です。自由な情報交換もできますが、単一化された民衆の民主主義はどこに向かっていくのでしょうか? 自分の息子が「スウェーデン人」になりすぎて融通の利かない人間になってしまったらどうしよう、と若干の不安は日々あります。

 

夫婦間の平等についてですが、これも今までの話に繋がる部分があると思います。現在のスウェーデンのシステムは資本主義の男性社会が作り上げた価値観をまず平らにして、そこから考えていきましょう、としている最中だと思います。24時間18年の間、子育ては母親の責任だと多くの人が認識している社会と、父親と母親が子育てに同じぐらいの時間携わって双方に全く同じに責任があるのだと認識している社会では、自分が判断できる価値観や幸福感ももしかしたら違うかもしれません。成熟したモノの考え方ができている人は自分の責任のもと、他者への平等もその時々の状況のもと、公平にできると思います。有里枝さんの言うように、本来なら人はそうあるべきですよね。モラルや文化が入り混じり、平等や価値観が曖昧になってアホなディクテーターが国の方針や勝手な価値観を押し付けてしまわないように成熟した社会的な価値観/モラルの基準というか、ある程度の共通認識を設ける必要があり、そして、私もその共通認識を正義として押し付けるのではなく、材料としてもっと議論されるべきだと思います。

 

それにしても、子育ての“ポストモダン風”の価値観ってなんなのでしょうね……。「社会的責任」と「政治参加」という言葉がふと出てきますが、ん〜、私は恥ずかしながら、結局、「自己満足」になっている気がします……。

 

ストックホルムは、ここ何週間もありえないぐらい暑く、30度近くになっています。芝が乾燥し、牧場では牛や馬の餌がなく、ニュースになっています。乾燥しているのも手伝って、各地でBBQが原因で山火事が多発し、災害特別委員会(と日本語で訳せばいいのかわかりません)が、スウェーデン国内にBBQ禁止令を出しました。ギャグじゃないですよ。

 

 

山野陽子

──────

 

次回更新は8/24(金)の予定です。写真家の長島有里枝さんからのお返事です。