Lifestyle magazine
for modern family

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DATE 2018.10.12

第17回:山野・アンダーソン・陽子より
私は息子の国籍をアイデンティティーだとは思っていない。

女性は子どもを産むとみんな「はは」になる。当たり前のことだけど、みんなそれをどう受け入れ、日常を送り、自分の生き方を新たに手にするのでしょうか。この連載では、クリエイターとして活躍する二人の「はは」と「ハハ」に手紙をやりとりしていただきます。それぞれの悩みや愚痴、ときに葛藤、あるいは日々の喜びから、あなたや私の「はは」としての生き方のヒントがみつかるかもしれません。

山野・アンダーソン・陽子さんから長島有里枝さんへ。

 

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有里枝さんへ

 

こんにちは。
信じられないスピードで2018年も冬がやって来ています。最近のストックホルムは5度を下まわる日も増えました。スウェーデンにいるとほとんどお天気に左右されない私でも日照時間の関係で夏と冬では睡眠時間が少し違います。夏は寝不足にはならないのですが、あまり眠らなくても体が元気です。やっぱり、人間は陽の光から力をもらっているのかもしれないですね。夏は、みんなの性格も少しオープンになってラテンな香りがします。逆に冬は日照時間(と言ってもすっきり明るくなることは珍しいです)が4〜5時間で、何だかずーと眠たい感じがします。冬の間は気が滅入って鬱になる人も多く、カウンセリングに行く人も増えるし、自殺も多いみたいです。人が家路を急いで、セカセカしている感じがします。私は冬が結構好きで、人に言ったことはないですが、冬になると暗い住宅街を進むバスにすごく乗りたくなって、時間が許せばちょっと遠回りしたりします。冬が好きだと言うと「ラッキーね」とよく言われます。夏より冬が好きだと言うスウェーデン人に会ったことがありませんが、隠しているだけで少ないですがいると思います。共通認識として「夏好きが当たり前」なので、夏がいいものだと思い込んでいる人が多いと思います。冬に気持ちが滅入ってしまうぐらいなら、いっそ、みんな冬好きになれたらいいのに。

 

息子は誕生日が11月なので、「寒くなって暗くなったら自分の誕生日」だと覚えています。まだスウェーデン人としての常識が備わっていないので、寒くて暗くなるのを楽しみにしていますが、ここ最近は毎朝「今日は僕の誕生日?」と聞いてきます……。なので、「雪が降ったらじゃない?」と付け足しています。うちでは、普段ダメだと言っているけど、特別にやりたいことをしていいよ、というのが毎年の誕生日プレゼントになっています。何がしたいかを話し合い、決めます。去年は「ナスとヘーゼルナッツとレーズンと一緒に豆乳(+ちょっとの牛乳)のお風呂に入る」ということで落ち着きました。今年はどんなお願いが来るのか楽しみです。有里枝さんは息子さんの誕生日に何か特別なことをしますか? 息子さんから有里枝さんへは何かありますか?
ところで、私は今、ロンドンに来ていて、ストックホルムに帰る飛行機に搭乗するのをゲートで待ちながらこれを書いています。今回は、学生時代の友人の家に泊まらせてもらいました。普段なかなか会えないし、滅多に話せないけど、大きなダブルベットに二人で寝て、ダラダラと朝食を一緒に食べるだけで、すごく近しい気持ちになります。私は、どちらかといえばうちに遊びに来てくれた人(特には寝泊まりしてくれた人)に近い感情を抱くことが多い気がします。そして、「泊まらせて!」とまでは言えずにいますが、遊びに来てくれた人の家に遊びに行きたい気持ちはひっそり持っています。
先日、スウェーデンで選挙があったため、イギリス人の友人達とも政治の話で盛り上がりました。言葉のみで判断すれば、自分の周りの人が自分と同じような政治的見解をしています。でも、よくよく聞くと友人は保守的な考えの持ち主のようですが、それでも自分たちの政治的意向は中央より少し左寄りだと主張します。私は、スウェーデンでは夫から「資本主義の被害者」とふざけて呼ばれるのですが、イギリスの友人からみると「スウェーデン人」だから、行きすぎたリベラルでどっぷり左翼に見えるそうで、その見え方の違いはとても面白い経験でした。認識されている「中央」が国によって全然違うから、自分は「中央」に近いと思っていても、こうやって違いが出るんだな〜と勉強になりました。

 

ブレグジット(Brexit/欧州連合からのイギリスの脱退)の話にもなり、スウェーデンの国籍を持つ友人がイギリス国籍を取得して、そのセレモニーで「女王へ歌う」と言った時、一瞬、何のためなのか意味が分かりませんでした。「エリザベス2世に会うの?」と聞いたら、イギリス人の友人達が女王の写真に向かって忠誠を誓って歌うのだと、私のバカな発言を笑いました。でも、どう考えても、今時そんな事ある!? と、こっちが笑っちゃう内容です。21世紀に、役場だかどこかに保証人(仕事を休んでもらって!)を連れて行って、その隣で忠誠を誓って女王の写真に向かって国家を歌うって……。しかも、自分たちは保守派じゃないって言っておきながら……。「イギリス女王への忠誠」って何なのでしょう? 何ならどんな感じなのか興味深いからその場に行ってみたいとさえ思ってしまいます。学校ですら国歌斉唱をしないスウェーデンなら衝撃ニュースです! なんでそんなおかしいというのか分からないよ、と言われると、そうか、国をまとめるためにも必要なことなのかな、私がズレているのかな、と思い至りました。もちろん、どちらが正しい感覚だということでもなく、話し合える友達がいて、感覚の違いを知るのは楽しいですね。ひとりっ子で近くにいとこすらいない息子にたくさん話し合える親しい友人ができるといいなぁ、としみじみ思いました。有里枝さんもそんな不思議なカルチャーショックのご経験ありますか?

 

その後もその流れで、国籍の話で盛り上がったのですが、「国籍」を自分のアイデンティティーの一つとして考える人もいるし、その国に住める資格と考える人もいて、「国籍」という単語一つでも捉え方や感じ方が随分と違うのだな、と思いました。息子は今のところ、スウェーデンと日本の二重国籍です。ご存知の通り、日本は国籍を1つしか持てないので、22歳になる前にどちらの国籍にするのかを選ばなくてはいけないようです(もう既に他人事ですが)。息子がどちらを選ぶのか、はたまた全然違う国籍を取得するのかを考えた時、私は息子の国籍をアイデンティティーと思っていないんだな、と感じました。息子自身がどう感じるのか、もう少し大きくなったら聞いてみたいです。

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次回更新は10/26(金)の予定です。写真家の長島有里枝さんからのお返事です。