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for modern family

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DATE 2018.09.28

第16回:長島有里枝より
なおしたくてもやめられない、優柔不断な母親の悪い癖。

女性は子どもを産むとみんな「はは」になる。当たり前のことだけど、みんなそれをどう受け入れ、日常を送り、自分の生き方を新たに手にするのでしょうか。この連載では、クリエイターとして活躍する二人の「はは」と「ハハ」に手紙をやりとりしていただきます。それぞれの悩みや愚痴、ときに葛藤、あるいは日々の喜びから、あなたや私の「はは」としての生き方のヒントがみつかるかもしれません。

長島有里枝さんから山野・アンダーソン・陽子さんへ。

 

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陽子さん

 

こんにちは。

 

すでに薄手のコートで保育園の送り迎えされているという手紙を、冷房の効いた部屋にTシャツ一枚で読みました。昨日、東京は台風で大荒れでしたが、今日は晴れ、予想最高気温が34℃。暑さもようやく落ち着いたと思ったのに夏のやつ、変な時間に寝落ちして夜中に目覚めたゴキゲンな赤ちゃんぐらい厄介です。

寒くて暗い冬を待ち遠しく思うなんて、陽子さんはなんだかスウェーデンに住むべくして住んでいるみたい。私も一度、夏ではない北欧を経験してみたいです。ところで、ずっと気になっていたのですが、北欧の人々は夏の間、寝不足にならないんですか。

 

車で往復2000kmの旅なんて、壮大! しかもそれが例の、40歳のお祝いだったわけですね。スウェーデンでは40歳の誕生日を一番盛大にお祝いしてもらえるって、5月にお会いしたときおっしゃっていましたね。どんなパーティがあるのかなぁと思っていましたが、わたしが勝手に想像していたのよりもずっと素晴らしいプレゼントです。

ノルウェーへの旅って、北欧ではポピュラーなんでしょうか。フィンランドに住む友人も去年、家族とノルウェーに車で旅をしたと言っていました。一度は行っておきたくて、という話だったと記憶しています。なんにしろ、彼女の話と陽子さんの手紙から察するに、ノルウェーはよっぽど美しいところなんでしょうね。ああ、行ってみたい。子供の頃はキャンプやハイキングが大嫌いで、20代でも彼氏に無理に連れて行かれるところという印象でしたけれど、今になって、自発的に行きたいと思うようになりました。ノルウェーに行くときはBFとではなく、ちょっと成長した息子と行きたい気がします。というのも、わたしのBFは車の免許を持っていないので……。免許を持っていないことは多分、パートナーに対して抱いている最大の不満です。まぁ、他にも出不精で自然が苦手とかいろいろ、言いはじめたらきりがないんだけど(笑)。彼は、車のいらなかった「都会育ち」なんです。彼と車で出かけた一番遠いところは名古屋ですが、運転手が自分だけであることの精神的プレッシャーは相当なものでした。助手席に鎮座するフリスク&コーヒー係の存在はありがたくとも、恨みは募ります。高速から真正面に見える大きな富士山などを隣で激写されるたび、ああ、本来ならば私が……! と思ったりして。結果的に自分が全行程を運転することになっても、同乗者が免許を持っているのといないのとでは、のしかかる責任の重さが違います。眠くなっても交代できないし、SAで仮眠を取るのも気ぜわしい。ずっと自分が運転したいという人もいますが、私は断然、交代したい派です。そんなわけで、息子には免許を取って欲しいと密かに思っています。

 

これはちょっと迷惑な話かもしれないけれど、実は私、頻繁に会えない友人の家に泊めてもらうのが大好きなんです。同じ街に住んでいたらきっと、こんな親密な時間を過ごすことなんてなかったんだろうな、と思うぐらい、いろいろな話をしたり、逆に会話もないまま同じ部屋でただ過ごしたりすると、その人に不思議な愛着をもちはじめます。大学院のときに一年だけ入居した寮でも、アパートをシェアした4人に特別な感情を持ちました。同じ部屋じゃなければ口もきかなかったであろう人たちだったのに。家に泊めてくれた人は自分にとって特別な友人になることが多く、それがうれしくてまた「泊めて~」と甘えてしまいます。陽子さんもそういう経験、ありますか?

 

「ベランダから外を見ようよ」という息子さん、なにを見ようとしているんだろう。そんな可愛いこと言われたらホイホイついていってしまうんだろうなと思いながらも、自分の息子(3歳のイメージ)だったら「またですかい!」と心でツッコミ入れ、あとちょっと、とか言いながら仕事を続行したに違いない。ご質問の件、幸か不幸か、息子の興味関心は、生後5ヶ月から少しも揺るがず鉄道に向けられています。「うちの子は鉄道好きで」と言うと、先輩ママたちは必ず「いつか卒業するから大丈夫!」(別に困っているわけではなかったんだけれど)と励ましてくれましたが、気配なし。変に心配して「他のものを!」と紹介しても、母の機嫌をとるべく興味を示すのは一瞬で、あとは体が異物を排出するかのように、いつしか見向きもしなくなります。だから、親が自分の興味関心に子供を付き合わせることって子供の世界を広げはしても、彼らの「好き」を奪うことはないのだろうと、楽観視してきました。

 

それより、私には、息子になにかを「自分で選んでいいよ」と言いながら、彼が選んだものに対して「うーん」とか「それでいいの?」など、ミリオネアの司会者並みにファイナルアンサーを疑う悪癖があり、よくBFに注意されています。これ、ほんっっっとうに良くないとわかっているんだけど、なかなかやめられません。私自身がひどく優柔不断だということもあるでしょうけれど、よく考えると私のやっていることは、自分がずっと母にされてきて嫌だったことと同じで、怖いです。母はいまでも反省の意味を込め、「好きなのを選んでと言われてショッキングピンクの靴を選んだゆりちゃんに、本当にそれでいいのと聞いてベビーピンクに変えさせた」話をします。私も将来、そういう会話を息子とするんでしょうか……。息子とは、このことについてときどき話します。あなたの母が完全に間違えているし、「そういうとき、私の言うことは聞かないで!」とあらかじめ念を押すなどの悪あがきをしますが、彼にすればごちゃごちゃ言われないに越したことはなく、迷惑な話だと思います。でも、そこから、母がいびつな一人の人間であることを学んでくれているとも(彼の苦笑や私にむける視線などから)感じます。

 

線路のように鉄道一直線だった息子も、最近は小説を書いたり、ライブに行ったり、バレエをしたりと、もはや親を頼って世界を広げる必要はなさそうです。今の私たちを繋いでいるのは、毎日の食事を中心とした「暮らす」という営みと、バレエのレッスンでしょうか。私が習っていたのを、運動が苦手な息子にも始めさせたのが小1のとき。小4の終わりに辞めてしまいましたが、中1でとあるバレエ公演を観て、もう一度習いたいと自発的に再開しました。以来、辞めそうな気配はありません。夏には、親子で発表会に出ることもあります。レッスン中にケンカすることもあるけれど、概ね楽しく一緒に通っています。陽子さんと息子さんは将来、どんなことで繋がるのでしょうね。想像するだけで、胸が踊りますね。

 

長島有里枝

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次回更新は10/12(金)の予定です。ガラス作家の山野・アンダーソン・陽子さんからのお返事です。