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DATE 2019.05.28

絵本『ダーウィンの「種の起源」』の翻訳者、生物学者・福岡伸一さんに聞く。子ども時代に育むべき、かけがえのないセンス・オブ・ワンダー。

ファッションブランド〈MUVEIL(ミュベール)〉が、絵本『ダーウィンの「種の起源」』を翻訳された生物学者・福岡伸一さんのトークイベントをGALLERY MUVEILで開催しました。ファッションと進化論。遠い存在のような2つのテーマがなぜリンクしたのか、福岡伸一さんと〈ミュベール〉デザイナーの中山路子さんに話を伺いました。

〈ミュベール〉デザイナーの中山路子さんと生物学者の福岡伸一さん。

中山「ここ数年、地球上の生き物や環境問題にとても関心を持っています。時間を作っては大学の講義を聞きにいったり、関連する書籍を読んだりしているんです。その中で、東大で行われた建築家の隈研吾さんの『この先に繋げる都市環境のアイディア』というシンポジウムに参加して。そこに、福岡先生がゲストで登壇されていた。生物学の立場から“生命とは何か”を語られていました。その時の印象がとても衝撃で。自分の視点では気付けなかった驚きと発見がたくさんあったんです。なるほど、こういう視点を持てば人間として動植物を敬うことができるんだと、急に世界がキラキラと見え出したんです。」

トークショーが開催されたのは絵本『ダーウィンの「種の起源」』の発売日。

ーーこれまでもミュベールでは、動植物をモチーフにコレクションを紡いできていますが、今年のSSコレクションでは「ゼツメツキグシュ」に瀕される生き物たちとの共存に着目されています。

 

中山「そうですね。このコレクションも先生の著作に刺激を受け、学んだことから着想したものです。生き物に対する考え方、見方を知る入り口として、ファッションも絵本も、伝え方は違いますがつながる部分はあると思います。自然への関心や動植物の長い歴史、どうして今があるのかということを理解するきっかけになればいいなと、先生にトークイベントをお願いしました。」

 

福岡「私は生物学者になる前は虫好きの昆虫少年だったんですね。なぜ虫が好きかと言うと蝶々の羽根やテントウムシ、カミキリムシの小さな背中には、赤とか黄色、グリーンといった鮮やかな色が宝石のように押し込められている。そこにまず惹かれたんです。今日、ミュベールさんのお店をぐるりと拝見すると、まさにそんな自然のカラーをイメージにしたお洋服が並んでいる。『ダーウィンの「種の起源」』という絵本とお店のカラーがとてもマッチしている。こんな素敵なお店でお披露目ができることがまず率直にうれしいです。」

 

中山「ありがとうございます。」

福岡先生が所有する「種の起源」の原書。こちらは1872年刊行の第6版。大英博物館の向かいにある200年の歴史のある古書店で購入したそう。

福岡「そしてまた生き物に対する考え方、見方を知るきっかけというのもとても共通しているテーマだと思います。というのも、ダーウィンの『種の起源』という本は、生物学者にとってもっとも大事な1冊ですが、それにもかかわらず生物学者ですらちゃんと読んだことがある人がなかなかいないんです。」

 

中山「そうなんですか!」

 

福岡「『種の起源』は、19世紀に書かれた古い本ですし、さらに原書は分厚くて1枚も挿絵が入ってない。動物や植物の絵がたくさんあるんじゃないかと思うけれど1枚もないんです。だから、専門家でなくても誰でも知っている本のはずなのに、誰も読んだことのない敬遠される1冊になってしまっている。それはよくないんじゃないかと思っていたら、この絵本の翻訳のオファーをいただいたんです。絵本は『種の起源』のエッセンスを知るのに最適だと思います。だって自然界はすべてビジュアルでしょう。まず、目で見て、色や美しさ、形の不思議さに驚き、興味を持つ。だったら、ビジュアルで表現される絵本で、ダーウィンのことをもっと知ってもらうべきだと思ったんです。」

中山「たしかに、絵があることでとても分かりやすく読むことができました。大人が読んでも心に響く内容です。また、ダーウィンのことを『ナチュラリスト』と表現しているのもとてもいいなと思いました。遠い存在の人だけれど、すっと入ってきます。」

 

福岡「ナチュラリストとは、自然(ネイチャー)を愛する人ということ。私と同じようにダーウィンもまた幼い頃から昆虫少年だったんですね。昨日までイモムシだったものが、サナギになり、しばらくすると蝶になる。そんな劇的なドラマは自然の中にしか起こりえない。そんな不思議がたくさんあるんです。まずは自然に驚くこと、つまりセンス・オブ・ワンダーですね。それがすべてのナチュラリストが実感していることです。とは言ってもこれは特別なことではなくて、子どもなら全て備わっているものなんです。大人になるにつれ、残念ながら、みんな忘れてしまうんです。」

 

中山「先生が絵本の帯で『子どもたちはできるだけ早く、大人も遅すぎることはありません。』と書かれています。大人としては、子どもたちの生き物への興味を深めるためにも、ぜひ手にとってほしいと思います。」

トークショーには100人近い人達が集まった。皆、熱心に先生の話に聞き入る。

福岡「センス・オブ・ワンダーに敏感な子ども時代がこんなに長いのは人間だけなんですよ。猿と人を比べると圧倒的に人間は子ども時代が長い。猿は生まれて5、6年で生殖行為をはじめます。一方、人間は10〜12歳くらいまで子ども時代で第二次性徴を迎えて、言葉は悪いですがようやく色気づく年頃になる。」

 

中山「そう言われれば、そうですね。でも、なぜ人間にだけこんなに長い猶予を与えられているのでしょう。」

福岡「まさに人間だけの特権です。大人になれば、求愛活動や生存競争、縄張り争いなど煩わしいことにエネルギーを費やさないといけなくなってしまう。それらと無縁でなだらかな子ども時代を持つからこそ、人は人であると私は思います。長い子ども時代は、何にも縛られずに、好奇心を持って自然に触れ、遊びを楽しむことができる。その結果、人は、自分の外に新しい発想を生み出すことができる。ファッションもアートも音楽も経済もそうやって生まれたものだと思います。だから、センス・オブ・ワンダーを感じられる時期は人間にとってとても重要なものなんです。」

 

中山「あと、この絵本で改めて自戒の思いを抱いたのは、生き物の中で人間はいちばん後輩であるということです。」

 

福岡「ダーウィンの『種の起源』を出版する前は、世界は神様が一挙に作ったと考えられていた。でも、300万種類くらいある生き物をたった7日間で作るのは無理がある。しかも300万の半分の150万種は虫なんです。もし神様が生き物をすべて作ったとしたら、神様は相当な虫好きということになります(笑)」

中山「なんと! 福岡先生のような神様なんでしょうね(笑)」

 

福岡「まあ、そんな神様なら虫好きにとってはありがたいですが。ダーウィンはその多様性に気づき、生き物は長い時間をかけて同じ祖先から少しずつ進化したんじゃないかとアイディアを思いついた。それが熟成して進化論になるわけです。ここで大事なポイントは、決してその進化は強いものが残り、弱いものが死に絶えたわけではないということ。環境に応じて柔軟に変われた種が生き残れたんです。それでこの多様性が生まれた。中山さんがおっしゃる通り、人間は今、一番地球上で威張っているけれど、一番、最後にやってきた外来種。ほかの生き物たちが、場所をあけてくれた。それこそ柔軟に受け入れてくれたわけです。それなのに人間はわがまますぎますよね。」

 

中山「本当にそうだと思います。生き物のルーツを知ることで、その見方を変えられたら一番いいと思います。」

福岡「サステナブルであることが重要視されるなど、環境を考えるコンセプトは、今の人間に謙虚さを取り戻させようとしていますけれど、まだまだ人間は地球上では厄介者です。だって、人は他の生き物がいないと生きていけませんから。一方で、他の生き物たちは人間なんていなくても生きていける。進化論の教えは、人間よ、もっと謙虚になれ、と。そういうことでもあると思うんです。」

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