Lifestyle magazine
for modern family

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DATE 2019.05.21

若木信吾「格好いいと無条件に感じるものを“見上げる”」

さまざまな写真家の“子どもになって撮る1 枚”をご紹介。第6回目の写真家は、若木信吾さん。一緒に考える、写真の魅力、写真の不思議、写真てなあに。

高いものを見上げるこちら側は大人子ども関係なくみんなちっぽけ

クレーンを前にするとその存在感に圧倒され、反射的にカメラを向けてきたという若木さん。息子さんも同じくクレーンが大好きで、見かけるとすごく喜ぶのだそう。

 

「うちの子は工事現場が好きで、特に高いクレーンに反応するんです。僕も昔から、クレーンを前にするたび、自然とシャッターを切ってきました。どの国も必ずどこかでビルを建てているから、クレーンはどこに行っても必ず存在していて。思い返してみると、いろいろな国のクレーンを撮ってきましたね」

 

フィンランドのヘルンシキで撮影したというクレーン。「この形って結構珍しいんだよね」と話す若木さんの様子は、どこか嬉しそう。目にしただけで心が躍るモノ・コトを前にした時、人は子どもに戻るのかもしない。「格好いい!すごい!きれい!」そういったシンプルな感情は、大人になっても子どものように真っ白。

惹きつけられる存在であるクレーン。それにまつわる大好きな本があるという。

 

「ライナー・チムニクの『クレーン男』という児童書です。クレーンを操縦する役目をもらった男が、その仕事に誇りを持ち、整備をしながらずっとクレーンの上だけで暮らしていくという話。下界ではさまざまなことが起こり、世界はどんどん変わっていくけれど、彼は整備をし続けながら一度も降りることなく生きていく。ライナー・チムニクの本の中で一番好きなストーリー。僕らは一生クレーンの操縦席には登れないんだなぁと思うと、それってすごくないですか? “ クレーン男” じゃないけれど、そこに特別なものを感じるんです。この企画のテーマをもらって、フィンランド、浜松、北海道などに訪れながら、子どもを撮ったり、風景を撮ったり、いろいろ撮影してはみたけれど、やっぱりどの写真もどうしても大人目線。企画のことを考えずにいつもの習慣で反射的に撮ったこの写真が、最終的に一番ピンときました」

格好いいと無条件に感じるものを“見上げる”という行為。それは、誰もが子どもに戻る瞬間。若木さんにとっては、それがクレーンだった。

 

「ダンプカーでもショベルカーでもなく、クレーンに反応してしまう僕と息子。誰にも登れないあの高さや造りに、スペシャルなものを感じずにはいられません」

毎日持ち歩くブラックボックスは無限大の可能性を持っている

今でもプライベートではフィルムカメラを持ち歩いている若木さん。カメラとの出会いは、小学生の頃。“ 一家に一台カメラを” という時代が訪れ、急速にカメラが世の中に広まっていく中カメラに魅了されたという。

 

「 世の流れにそって、わが家にもカメラが登場したのですが、結局は誰も使わなくて。だから、僕が持ち歩いていました。アミューズメントパークや、いろいろなところに持っていって好きに撮っていましたね。それ以来ずっと、小中高とカメラを持ち歩いていました。中学校までは、フラッシュフジカ。高校からは一眼レフに」

小学校時代からと考えると、カメラを持ち歩く生活はとても長い。そんな若木さんにとって“ カメラ” とは?

 

「カメラというものがあるおかげで、何もないところから何かを抽出して表現することができる。このブラックボックスを持つだけで、そこには無限大の可能性が生まれ、“ これさえあれば何か表現することができるんだ!” と誰に対しても思わせてくれる。だからこそハマるし、抜けられないんですよね。“ カメラ” というものの許容範囲は、世のカメラマンを全員集めたものを超えているんです。それって本当にすごい。だから一生手放せません。カメラがあるから見るし、何かを見たらカメラで覗きたくなる。その繰り返しです」

 

お子さんが生まれたことで、写真というものに対して何か変化はあったのだろうか。

「僕がカメラを持ち歩いているので、子どもが写真撮りたいってお願いしてきたりしますよ。僕の見よう見まねで撮っています。でもまだ小さいから、何かを撮りたいというより、覗いてシャッターボタンを押すという行為が単純に楽しいみたい。だから指がレンズを押さえてしまっていたりすることもしょっちゅう(笑)。子どもの存在で何かが変わったということはないと思うけれど、そういう子どもの姿を見ると、純粋に“ カメラ” というものを楽しむ気持ちを思い出したりはしますね。僕が小学生の頃カメラを持ち歩きだしたキッカケは、見たものを撮ったら、後にそれがプリントとなって手元に残る、その過程がすごく面白くて仕方がなかったこと。撮る前にわくわくして、撮る過程も面白くて、撮り終わった後もまた面白い。そんな楽しくて仕方がないという気持ちが忘れられず、カメラを持ち歩き続けているんだと思います」