Lifestyle magazine
for modern family

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DATE 2018.12.05

05 音楽は、なぜ子どもたちの学習に良いのか?
言葉を超えて、伝える・表現する力

学校や塾に習いごと、毎日忙しい子どもたちにとって自分らしく生きられる「学び」とはどんなものなのでしょうか?学校教育にとどまらない、独自のエデュケーションを進めるスペシャリストたちが、実践的な新たな学びのかたちを紹介していくコラムシリーズ。

今回は、音楽を通して子どもたちに深い学びを提供するマイケル・スペンサーさんのお話を、3回にわたりお届けします。かつてロンドン交響楽団のヴァイオリン奏者だったマイケル・スペンサーさんは、ある時、音楽の持つ本質的な魅力に気がつき、エデュケーターとしての道を歩むようになりました。スペンサーさんが実践する、音楽エデュケーションのかたちとは?
・第4回目「音楽を通してもっと創造的な遊びを」と合わせてご覧ください

言葉を超えて、伝える・表現する音楽

 ではここで、音楽をただ鑑賞したり奏でたりするだけでなく、「音楽」に実践的に関わることが、なぜ子どもたちの学習に良いのかを考えてみましょう。その理由はまず、音楽は記憶に依存するという性質に由来します。なぜなら、音楽は聴いたらすぐに消えてしまい、また聴く度にその人にとっての文脈が変わってしまうため、私たちは二度と同じ音楽を聴くことはできないからです。そのため、その場・その瞬間に聴いた音楽に対して、私たちは瞬時にリアクションし、分析しているのです。つまり音楽をたくさん聴くことは、音楽の中のある種のパターンを見つけだし、これらを認識して記憶するという「認識」の能力を高める重要なスキルになるでしょう。

 また、音楽の制作に参加することは、社会と関わる学びでもあります。 つまり私たちはグループ学習を通して、もっと効果的にお互いに学び合うことが可能だということです。それはまた、音楽という極めてノンバーバルなメディアを通して、人とコミュニケーションを取ることを意味します。言葉以外でモノを概念的に考え、表現するスキルが身につくのです。ただ、実はこのプロセスはミュージシャンにとってもそう簡単なことではありません。実験的な音楽を作ることで有名なミュージシャンのフランク・ザッパでさえ、「音楽について話すことは、建築に対して踊るようなものだ」と話していますから。

演奏家から、エデュケーターの道へ

 かつての私は、こんなふうに音楽を考えることなどありませんでした。もともと私はロンドン交響楽団でヴァイオリニストをしていたのです。その頃は、レナード・バーンスタインからポール・マッカートニーまで、またはストラヴィンスキーから『スター・ウォーズ』への音楽の演奏やレコーディング、そして最も重要な国際コンサート会場での演奏など、舞台に立った時の思い出は今でも鮮やかによみがえります。しかし当時は、私は演奏者という枠を超えた自分の責任について考えることがほとんどなかったのです。

 それからしばらくして、私は世界最大で最も複雑な芸術団体の1つであるロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスで教育責任者に就任することとなります。そのキャリアチェンジのきっかけとなったのが、イギリスで数年前に始まったコミュニティの教育運動の一環としての、新しいスキル開発の機会でした。 これは、音楽と芸術のアクセシビリティを向上させ、エリート主義を弱めようとする政府主導の取り組みでした。そこで私たちは演劇のトレーニングを最大限に取り入れ、時に「leaning by doing(やっているうちに分かってくる)」と呼ばれることもある、現在でも非常に効果的なインタラクティブな学習プロセスを進化させました。

 そこでのワークショップの本質的な目的は、リーダーやファシリテーターが、あらゆる年齢の参加者の間で、自己決定的かつ実験的な創造活動を引き起こすような、一連の刺激を提供する学習環境を作りだすことです。その結果、それぞれのパフォーマンスや経験を互いに共有できるようになります。そこでは学習のプロセスにおける質が重要で、最終的なアウトプットはさほど重視していません。これらの探検の間、グループは各自のアイデンティティや推進力、そしてより深いレベルの内省的分析を磨き始めます。

 ファシリテーターとして、私はこれらの原則に基づいたインタラクティブなワークショップ体験をいくつも作る必要がありました。その時、改めて音楽が果たす役割について再認識したのです。私は幼稚園から企業の会議室まで、これらのスキルを採用したワークショップを開催してきました。とりわけ昨年は、森美術館で開催された「宇宙と芸術展」とコラボレーションしたワークショップを行う機会を得ました。これは大人向けのプログラムで、私たちは「宇宙」の物理法則にまつわる音楽の銀河系のようなものを作りました。また2006 年、紀尾井ホールを会場に、美智子皇后を含めた約1000 人の参加者の前でワークショップを開催した時のことは今でも鮮明に記憶に残っています。

そして、私にとって最も形成的な経験となったのは、イギリスの王立聾学校で働いていた時です。耳の不自由な子どもたちのための音楽プログラムというのは、普通に考えると違和感があるかもしれません。ここでの挑戦は、私たちの常習的な先入観を壊すことにありましたが、最大の難関は、耳の聞こえない子どもたちと協業することでした。しかし、参加した子どもたち全員が一定の拍を捉えることができた時、その難関を突破できました。互いに共通の拍を感じることができれば、リズミカルな構造を構築できるようになります。そして数週間の実験の後、私たちは自己機能的なサンバグループを作りました。 このことは子どもたちの社交行動、そして最終的な達成記録にも影響を与えました。

次の回は、「音楽」を通した教育論の総まとめです。ぜひご期待ください。