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DATE 2017.11.20

02 知識ではなく、生き方を教える学びの場
“ 異才” を発掘する、 ROCKET プロジェクト

学校や塾に習いごと、毎日忙しい子どもたちにとって自分らしく生きられる「学び」とはどんなものなのでしょうか?学校教育にとどまらない、独自のエデュケーションを進めるスペシャリストたちが、実践的な新たな学びのかたちを紹介していくコラムシリーズ。
今回は、ユニークな子どもたちの個性を活かす「異才発掘プロジェクト ROCKET」を推進する、東京大学の中邑賢龍先生のお話を、3回にわたりお届けします。第2回目となる今回は、ROCKETの教育の指針となる、いくつかのポイントをご紹介していきます。
・第1回目「学校に行かないのは、悪いこと?」と合わせてご覧ください

1. リアリティを追求する

 最近の子どもは万能感にあふれています。インターネットで知識が満たされた子どもは、親が天才ではないかと錯覚するに十分です。しかし、突っ込んで話していくと彼らの知識がリアリティのないものであることに気づきます。現実と結びつかず応用できないまま知識をたくさん吸収した子どもたちをやみくもに褒めて育てるのは危険です。今後訪れるAI(人工知能)社会において、真っ先に駆逐される危険性を感じます。知識を調べて覚えることより、知識はどのようにして生みだせるかを教える必要があります。

 そこで、子どもの興味関心があることを専門家が教えるようなことはROCKET では行っていません。なぜなら学びは自分でするものだからです。その代わりROCKET の子どもたちは申請制度を利用できます。「もっと高性能のパソコンが欲しい」「専門家に会いに行く旅費を出してほしい」などの申請があれば、その都度彼らの申請書を審査して物品や機会を提供しています。我々が教えていく必要があることは学び方や生き方にあると考えているのです。

 ROCKET のある日の社会の授業を紹介しましょう。朝、部屋に集まった子どもたちはスマホを没収され、紙と鉛筆、1日の食費・交通費の1000円を渡されます。その後、「日本の鳥居の種類を調べたいから、夕方まで各地の鳥居を探してスケッチしておいで」とだけ告げられ、都内に散っていきました。しかし、地図なしに鳥居を探すのはなかなか大変です。夕方、鳥居のスケッチを終えた子どもたちがヘトヘトになって帰ってきました。それでも全員のスケッチを集めると数十枚の鳥居のスケッチが机の上に並びます。それらを分類していくと、直線型の鳥居(神明型)と反り返ってプレートがついた鳥居(明神型)に分かれることに気づきます。「わかった! 2種類だ!」と声を上げる子どもたち。でもそこで彼らに追い打ちをかけるのがROCKET 流。「これで分類ができたと思うのは間違いだ! 北海道から九州・沖縄までくまなく鳥居を調べて回って初めてわかる。それを実際に歩いて確かめるのが研究であり、君たちのやっていることは人の知識の確認作業にすぎない」と伝えます。インターネットがあれば1 分以内にわかる答えをわざわざ時間をかけてやるのはなぜかと問われれば、「子どもに知識の生みだし方を教えたいから」と答えるだけです。この授業で教えたかったのは、鳥居の種類ではなく、知識を生みだすことの大変さだということに皆さんにも気づいていただければと思います。

明治時代からある東大の研究棟の 一角にあるROCKET の拠点教室。
教室に併設されたキッチンでは、イカをさ ばくなどの料理実験を行う。
子ども たちから届く、自身のやりたいことを綴った 申請書。

2. 無計画・無目的な学び

「 教科書なんか勉強してどうするの?」「時間や規則で縛りすぎる」と学校を批判する子に、普段の学校と同じような教育はなじみません。それならばと教科書は使わず活動を中心に、時間割や計画はできるだけないかたちでROCKET のプログラムは進行します。

 子どもたちとよく旅に出ます。最近の学校の修学旅行は子どもたち自らが計画を立てて実施されるものも多いようですが、ROCKETでは無目的で無計画な旅も実施されます。何故なら、予定のある旅に驚きや発見はないと考えるからです。幸いにもROCKET は少人数であり、不登校の子どもたちは時間に縛られていないというメリットもあります。

 7月に実施した修学旅行は東京駅と宮崎駅という2つの集合場所が設定されました。2地点に各4名ずつの子どもたちが集まり、そこで初めて目的地が知らされます。「2日後の15 時にJR の各駅停車で潮岬に集合」と。潮岬とは、和歌山県にある本州最南端の岬のことです。情報機器は没収され、1日に使えるお金は食費・宿泊費込みで8000円、旅費は3日間で1 万5000円以内という制限付きの旅です。乗る列車も決まっていなければ宿泊地も未定、駅で寝ても構いません。学校に行ってない子どもたちのほとんどは潮岬がどこにあるかわかりませんが、スタッフは付き添うだけで一切何も言いません。書店に入り、人に聞き、ようやく潮岬が紀伊半島の先端であることを理解した子どもたちは駅の窓口で最寄駅の串本までの切符を買い、やっとスタートとなりました。修学旅行のように立ち寄って見学する場所もなく、ゲームもなく、本もなく、ただひたすら列車に乗り続け、潮岬を目指す旅です。何の意味があるかと聞かれれば何もない。目的や役立つことがなければ何もしない現代社会へのアンチテーゼでもあります。

 宮崎から東に向かうチームは13 時に集合したにもかかわらず15 時前まで列車がないことに愕然とし、結局、1日目は深夜までかかっても九州を抜け出すことはできませんでした。2日目は大阪までたどり着いたものの梅田の安いホテルは満室で、お金を持たない子どもたちを泊めてくれるホテルはありません。結局大阪の街を3時間ほどさまよい、ようやくベッドを見つけることができました。寝る場所のない不安を抱えながらやっとたどり着いたホテルのベッドで、家のありがたみを痛感したに違いありません。潮岬にたどり着き、合流した8名はお互いの旅を振り返り、東京からのチームの方が距離も短く、ゆとりがあったことに気づきます。実は宮崎から串本までの距離は1144.3 ㎞、東京からの距離638.7㎞の約2倍もあります。宮崎から来た子どもたちは自分たちの旅の大変さを訴えましたが、東京からのチームはのんびりと楽しかったようです。彼らに「何で潮岬を選んだかわかるか?」と尋ねてみましたが、そのわけに気づいた子どもはいませんでした。実は直線距離では、潮岬から東京と宮崎はほぼ等距離にあります。都市間の心理的距離は交通機関によって決まることに気づくのが今回の旅の隠された目的でもありました。

無計画・無目的の旅が始 まり、宮崎駅から潮岬を目指す子ども。

【中邑賢龍先生 オススメの学びの本】

『異才、発見! ――枠を飛び出す子どもたち』 著:伊藤史織(岩波新書)
異才発掘プロジェクトROCKETに密 着取材。バリエーション豊かなプロ ジェクトを紹介しながら、ユニークさ を歓迎する教育のあるべき姿を考察。 「著者の子育て体験を交え、現在の教 育の課題を示している」(中邑)

次の最終回は、ROCKETの教育の指針となる、殘り2つのポイントと教育論の総まとめです。ぜひご期待ください。