続・ははとハハの往復書簡 – 長島有里枝/山野・アンダーソン・陽子

MilKJAPON webで2018年に連載をしていた写真家・長島有里枝さんとスウェーデン在住のガラス作家・山野・アンダーソン・陽子さんの往復書簡。時間が経ち、世の中の状況も2人の関係も変わった今、またやりとりを拝見したい、とおふたりに手紙を書いていただくことになりました。母親として、ひとりの女性として、クリエイターとして、それぞれの“あり方”をもつ2人。その言葉から、私たちの生き方のヒントもみつかるかもしれません。短期集中連載もついに最終回です。
前回の手紙はこちらから

第8回 「関係性や環境で表現の思考も変わっていく」
(山野・アンダーソン・陽子→長島有里枝)
有⾥枝さんへ

こんにちは。

ストックホルムは10 度を下回る⽇も増え、肌寒くなりました。
夏の間、6週間にわたり開催していた展覧会も先⽇無事に終わり、最終⽇のアーティストトークにもたくさんの⽅に来ていただきました。いくら規制が解けたからって無頓着すぎないか!? と思うほど、展⽰スペースに2メートル間隔を取らずに⼈が⼊っている様⼦は久しぶりでドキドキしてしまいました。⼊⼝に無料のマスクは置いたけれど、案の定、誰もマスクをする気配はありませんでした。

もちろんマスクをしていても笑われたりしないです。それぞれ事情があるし、個⼈主義の国なので、他⼈に⼲渉しないんです。⼈と⽐べて⾃分がどうとかじゃなくて⾃分がしたいようにしかしない⼈たちなので周りを気にした⾏動はあまりしないし、基本的には⼈をジャッジしたりしないんだよね。関係性と状況にもよると思うんだけど、仲の良い友⼈がマスクをしていたら「具合悪いの?」「気にしてるの?」と聞かれるかもしれないかな。それで「気にしてるよ」と言えば「そうなんだ〜」って話が終わる感じ。でも、⼈に、「マスクをしなよ」とか「取りなよ」と強制する⼈がいたら、陰で笑われるかもしれません。

そもそも気にしている⼈は展覧会のオープニングには来ないよね。今は、ニュースもアフガニスタンの話が主流で、コロナはメインのトピックではなくなりました。オーディオブックは着々と進化しています。私が初めてオーディオブックの存在を知ったのはスウェーデンに来たばかりの20年前。ノルウェー⼈の友⼈が薪の暖炉の前でイージーチェアに深く腰掛けて⽬を閉じて、⼤⾳量でオーディオブックを聴いて⼤爆笑していたときです。ラジオを聴いているのかと思ったら、オーディオブックだというので、なんだそれ? となりました。

それから時が経ち、今では朗読の声が選べる本も増えて、演劇俳優をしている私の友⼈はオーディオブック⽤の朗読の仕事もしているよ。グラフィックデザイナーとアートディレクターの友⼈が、去年スウェーデンで出版社を⽴ち上げたんだけど、彼らはデザインベースの本を作っているので、彼らの本はオーディオブックにはしないんだって。よく考えればわかることだけど、本によって住み分けされていて、奥が深いな、と思います。

いよいよ続編の往復書簡の連載も最終回になってしまいました。
前回の有⾥枝さんの⼿紙にもあったけど、この往復書簡は「友⼈への⼿紙」でもあり、「仕事」でもあります。1回⽬の往復書簡と違って2回⽬の往復書簡は「仕事とプライベートの線引き」のバランスの取り⽅がより⼀層難しかった気がしたのだけど、それはそのせいだったのかも。1回⽬は、お互いを知らなかったので、今よりはもっと「仕事」として、⾃分のぶつけたい質問や⾔いたいことを往復書簡で有⾥枝さんへ投げかけさせてもらえていたのかもしれません。でも、今は友⼈で、LINEや電話で連絡を取ることも多いので、あらためて往復書簡という場で何を話したらいいのか、前以上に思考しました。

有⾥枝さんはどうだったんだろう?
機会があったらいつか話してみたいです。

なんにせよ、往復書簡がなかったら、多忙な有⾥枝さんへ⽉⼀で⼿紙を出すなんて絶対できなかったと思います。しかも、これがあったおかげで躊躇なく急に連絡も取れました。別に往復書簡の話をするわけではなくても、朝起きてゆりえさんからLINEが⼊っていたら、朝⾷を作ったり⾷べたりしながらでも、移動中にでも電話して声を聞くことができました。プロジェクトの相談をさせてもらったり、本や展覧会のDM を送ってもらったり、わがままを⾔って有⾥枝さんのお⺟さんが作ったマスクを送ってもらったり(息⼦は毎週⼟曜⽇にそのマスクを付けて⽇本語の補習校に⾏ってるよ!)。

⻑いこと会っていなくて連絡をしそびれていると、なかなか連絡できなくなってしまうけど、躊躇なく連絡を取れる関係になれたのは、この⽉⼀の往復書簡のおかげだと思います。この機会をいただけて、貴重な経験をさせていただいちゃいました。時間を空けて2回も連載を⼀緒にできたことで、同じ⼈同⼠での往復書簡でも関係性や環境が違うと表現への思考もこんなに変わるのだと学びました。こういう新しい感覚を味わえることがすごく好きです。本当にありがとうございました。また何かできたらいいなぁ、とほんのり期待をしています。

また連絡します。

陽⼦

山野アンダーソン陽子/Yoko Andersson Yamano

1978年生まれ。ストックホルムを拠点に活動するガラス作家。2007年スウェーデン国立美術工芸大学konstfack修士課程卒業。2011年、ストックホルム市より文化賞授与。2014年よりスウェーデンの国会議事堂内で作品が展示されている。2017年よりストックホルム市郊外のグスタフスベリへ、アトリエとガラス工房を移動し、ヨーロッパや日本を中心に世界各国で展示会を行っている。レストランやバーとのコラボレーションや食器メーカーへデザイン提供もしている。2018年より、静物画の中のガラス食器を考えるプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」を立ち上げ、スウェーデンや日本、ドイツの画家たちとともに作品制作をし、この夏スウェーデンで展覧会を開催予定。「暮しの手帖」でコラム連載も執筆中。www.yokoyamano.com

Text&Photo: Yoko Andersson Yamano
Edit:Kana Umehara