A Sense of Wonder「音楽と出会う時」

——子どもの世界は、驚きや不思議にあふれています。日々、子どもたちはそれらの扉をひとつひとつ開け、自分なりの解を得ながら成長していきます。その扉を子どもはどんなふうに見つけ、また開けるのか? その時、大人はどう寄り添う? 今回は子どもと音楽の出会いのこと。音楽療法や音楽教育を研究する今野貴子さん曰く、音楽はありのままの自分に自信を持たせてくれるもの。そんな音楽を通じて子どもの自由な表現を育むためのヒントとは。——

音楽の好きな子どもに育ってほしい、わが子を見てそう思う方も多いと思います。実際、音楽が子どもの発達にたくさんのいい影響を与えてくれることは、教育や育児の分野でも注目されています。そんな子どもと音楽との素敵な関わりはどうやったら生まれるのでしょうか? ここでは、子どもが音楽と出会った時に、大人が「見守る」こと、そして「一緒に遊ぶ」ことの大切さを、お話ししたいと思います。

新しい楽器を目の前にした時、好奇心いっぱいの子どもはきっと自らそれを探索しようとするでしょう。しかしそれを待たずに大人が先に「この楽器はこうやって使うのが正しい」と教えてしまったら、子どもの想像力や創造力はそこでストップしてしまいます。そして大人が教えたとおりにできないと感じた子どもは、そのうち楽器への興味そのものを失うこともあります。せっかくの子どもと楽器との出会いが、このような形で終わってしまうのはもったいないことです。

子どもが楽器に興味を持ったら、まずは見守ってあげてください。楽器で遊び始める子どもの姿をよく見て、そこで生まれる音に耳を澄ませてみる。「あれ、そんな音も出るの?」「そんな鳴らし方もあったんだ、気がつかなかった!」と、大人が驚きと喜びに満ちた声かけをして、子どもの真似をして、一緒に遊んでみる。すると子どもはうれしくなって「さっきと違う音を出してみよう」「こんな鳴らし方もあるかもしれない」と、さらに楽器に夢中になってくれるでしょう。

子どもが能動的に楽器探索をし、新しい音世界に向けて想像力の羽を広げていく。手指が、目が、耳が、敏感に繊細に働き始める。子どもの育ちに必要なたくさんの刺激と運動が生まれ、「これでいいんだ!」「自分の表現が受け入れてもらえた!」という喜びから「人にもっと伝えたい、人と関わりたい」というコミュニケーション意欲までも湧いてくる。

そこで生まれる音をまるごと受け入れることは、その音を表現した子どもをまるごと受け入れることに他なりません。

こうしたことを通じて、親との関係において大切な「愛着形成」、そして子どもの育ちにとって大切な「自己肯定感」が育まれるのです。

子どもが自由に楽器を鳴らしている姿を見ると「これでいいのかな?」と思うこともあるかもしれませんが、大丈夫。本来音楽はALL OKの世界です。あるパーカッショニストに「タンバリンだけを使った即興演奏で、子どもを3分間惹きつけてほしい」とお願いしたことがあります。彼は先入観を捨て去って、タンバリンひとつで思いつく限りの奏法を試し始めました。その楽器ひとつで試行錯誤している彼の姿は、まるで夢中になっておもちゃで遊んでいる子どものようでした。この時、彼が繰りだした自由で刺激的な音色とリズムの世界に子どもたちが目を輝かせて魅了されたことは、言うまでもありません。

実は「声」も楽器のひとつです。心に沁みるハスキーなジャズヴォイス、空気に溶けるボサノヴァの囁き、身体を突き通すロックのシャウト、脳内に響く不思議なホーミー、オペラハウスを生の声で支配するベルカント。声の世界にもさまざまなジャンルがあり、みな違う発声、様式、表現で人を惹きつけています。歌い手は、自分の個性や持って生まれた声を活かすべく、それぞれのジャンルで、それぞれの自己表現をしているのです。

いつでもあなたの前に開かれている、自由で深く広い音楽の世界。それは子どもの無限の可能性とつながっています。子どもの音が、あなたの声が、二人の感性が求める音楽の世界がきっとあるはずです。主体的で喜びに満ちた「おとあそび」は、その子らしい自然な発達の道筋を開き、ありのままの自分に自信を持たせ、豊かな親子のコミュニケーションの時間をもたらしてくれます。それは、私たち大人にとっても、本来の自分を取り戻す大切な時間になるのかもしれません。

「音を楽しむ」と書いて「音楽」です。子どもといる時、その一瞬にしか生まれない大切な音、それに耳を澄ませて、ともに楽しんでください。それが子どもを育む「おとあそび」の世界です。

そしてどうかあなたも、子どもとともに、音楽を楽しんで。

音楽療法・音楽教育研究者
今野貴子

東京藝術大学(音楽療法)、東京立正短期大学(幼児教育)各非常勤講師。子どもの個性に寄り添いながら自己表現や発達全般を促す音楽活動の実践研究を行なっている。保育関連雑誌への寄稿の他「おとあそび♪音楽隊」リーダーとして、長年にわたり教育委員会等主催による親子コンサートの企画出演や研修講師を担当。数多くの幼稚園や保育園、発達支援センター等でも音楽活動を実践している。障がい児、高齢者を対象とした音楽活動経験も豊富。現在、誰もが音楽を楽しめる「おとあそび♪サロン」を開催中。https://www.otoasobi.jp/

Text: Takako Konno
Illustration: Yuki Maeda