みんなのアイデアで成長する遊び場、コロガル公園

さまざまなメディアテクノロジーをツールに、未来志向の教育プログラムを提案する山口情報芸術センター〈YCAM(ワイカム)〉。子どもたちが自ら遊び、学び、考えるための環境をつくりだす〈YCAM〉の教育への取り組みを探る連載シリーズ。(第1回はこちら
今回はYCAMから生まれた、子どもたち一人ひとりが自分たちの手で遊び場を拡張していく「コロガル公園」シリーズに迫ります。
© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM] Photo by Shintaro Yamanaka (Qsyum!)
© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]
残暑の残る8月下旬、夏休みもいよいよ終わりに近付く週末のYCAMには、山口市の内外からやってきた小学生の子どもたちの熱狂する声が、館内のそこらじゅうから聞こえてきます。なぜ、こんなに子どもたちが?

それもそのはず、先鋭的なメディアアートの制作・発表拠点であるアートセンターYCAMは、同時に地域の子どもたちのメディアリテラシーを育む、国内有数のエデュケーション施設という顔を持ち合わせているのです。といっても、子どもたちは貴重な夏休みを使って、わざわざ「お勉強」をしにくるのではありません。彼らは、全力で「遊ぶ」ために、この場所に足しげく通ってくるのです。そして、全力の「遊び」を通して、テクノロジーの特性を理解し、自分たちでルールをつくり、「遊び」を新たに開発しています。

新たな「遊び」の実験場

© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]
その最たる例が、YCAMが2012年から展開している「コロガル公園シリーズ」です。
テクノロジーの特性を海や森と同じような「環境」として体験することを目指した公園型のインスタレーション作品で、映像や音響、センシング技術などメディアテクノロジーを活用した多様な仕掛けと波のようにうねる不定形の床面で構成されています。これまで、YCAMの所在地である山口市での開催や札幌、東京への巡回を重ね、全五回の開催でのべ23万人の来場者の方に親しまれています。

2016年の夏に開催されたシリーズ最新作「コロガルガーデン」では、大小さまざまな17個のブロックに埋設されたLEDライトが振動に応じて空間全体に広がる大きな図形を描いたり、内蔵されたマイクに向かって叫ぶと、遠く離れた場所から声が聞こえてきたりと、見えない仕掛けが満載。そこには、「遊び方」の説明は一切ありません。メディアに反応した子どもたちが、思い思いに新しい遊び方を見つけていくのです。

その熱狂ぶりたるや、子どもたちの中で何が起きているか、現場にいてもひと目ではまったくわかりません。何十人もの子どもたちが行き交う「コロガル」の中では、ブロックを一つずつ飛び超えていたかと思えば、傾斜のある橋を駆けたり、マイクを使って遊んだりと、それぞれの遊びはめまぐるしい限り。しまいには、会場の奥からこんな声が聞こえてきました。
© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]
「いまからゲーム作りたいひと!集合——っ!!」

呼びかけたのは、YCAM常連生、通称「YCAMキッズ」と呼ばれる子どものひとり。彼らは、コロガルを熟知し、さらに遊びを自ら拡張していく開拓者です。コロガル内で新しいゲームを開発しようと、周囲の子たちに呼びかけ、何やら企画会議を始め出したようでした。

環境は変えられる。子どもたちの「自治意識」の芽生え

「コロガル開催中はいつもこんな感じ。ぼくたちの知らない間に、勝手に色々な遊びやルールが生まれていくんです」

そう語るのは、YCAMエデュケーターの菅沼聖さん。

「ここは子どもたちがつくっていく小さな『自治区』なんです。親や学校、または社会から“与えられた”場所で、決まった遊びをするのではなく、“自分たちで変えていく”ことを経験する場なんですね。子どもたちから出たアイデアは、できるだけぼくたち大人が実現できるようにサポートしています。
あの床をもっと高くしてほしい!という要望に答えるにはお金も時間もかかってしまいます。でもこの空間全体を海みたいに青くしたい!というアイデアには映像や照明機器を使って応えられます。メディアテクノロジーの可変性の高さと子どもたちの柔軟な発想力は相性がぴったりなんです。」
© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM] Photo by Shintaro Yamanaka (Qsyum!)
菅沼さんがそう語るように、コロガル開催期間中、数回にわたって開催される「子どもあそびばミーティング」は、まさに子どもたちがコロガル公園に追加したいアイデアを議論するミーティング形式のイベント。ここで採用されたアイデアを、YCAMが誇るラボチームが実装していきます。メディアアート作品の制作を得意とするプログラマ、エンジニア、映像、音響のプロフェッショナル集団です。

「環境は、変えられる」と知ったYCAMキッズたちの功績とその歴史は、2012年から続いています。たとえば、2013年には、コロガル公園が期間限定で終わってしまうことを知った有志たちが立ち上がり、「コロガルを残そう」と署名運動を開始。結果は功を奏し、翌年の開催にこぎつけることとなりました。
「もちろん、彼らの行動には失敗もたくさんあります。というか、ほとんどが失敗の連続なんです。「遊び」のいいところは失敗や不正解という言葉を挑戦や実験というポジティブな言葉に変えてくれるところかもしれません。公園のオープンから1ヶ月もすると、掃除やメンテナンスを手伝う子やイベントを独自に企画する、といった自発的な活動が生まれてきます。遊び同様このような意識の変化も伝搬する性質があってその輪はどんどん広がっていきます。

YCAMが大切にしているのは『体験的な知性』。テクノロジーやコミュニケーションを学ぶには、自分の体を使って、感覚的な理解を育てていくことも重要です。

コロガルは、子どもたちが思いっきり遊ぶ中で、失敗したり、考えたりしながら、「社会」を実践していく場になっているんです」

子どもたちと共に成長していく遊び場、コロガル公園。次回は、こうした環境から生まれた「YCAMキッズ」に迫ります。お楽しみに!

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