Lifestyle magazine
for modern family

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DATE 2018.05.25

第8回:長島有里枝より
あと数年で家を出て行ってしまうだろう息子を思って涙ぐむ時。

女性は子どもを産むとみんな「はは」になる。当たり前のことだけど、みんなそれをどう受け入れ、日常を送り、自分の生き方を新たに手にするのでしょうか。この連載では、クリエイターとして活躍する二人の「はは」と「ハハ」に手紙をやりとりしていただきます。それぞれの悩みや愚痴、ときに葛藤、あるいは日々の喜びから、あなたや私の「はは」としての生き方のヒントがみつかるかもしれません。

長島有里枝さんから山野・アンダーソン・陽子さんへ。

 

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陽子さん

 

こんにちは。スウェーデンは4月末で気温が6℃なんですね。北欧圏の人が夏を愛する理由がわかる気がします。ヴァルプルギス、聞いたことがなかったけれど、「夜」で「炎」だから、日本のお焚き上げをイメージしました。しかし、家具を燃やすのですよね? 気になりすぎて、結局ネットで調べたら、なんと魔女のお祭りですか。なんにしても、寒い日に炎を眺めるのは嫌いじゃないです。息子さんはどんな反応だったのでしょう?

先週は東京の天気も微妙で、5月なのに最高気温が10度だったりしました。月曜からはよく晴れて(いまは火曜の午後です)予報も27℃なので、窓を開け放して仕事しています。ゴールデンウィークも少し前に終わってしまったので、この天気を励みにしばらくは仕事、仕事の日々です。

 

家事を自分でするのが当たり前というスウェーデン人の考え方について、いろんな方に聞いてくださったお話を興味深く読みました。「タブーがない意見交換」があたり前にできるなんて、またしても羨ましいかぎりです。自分の考えを恐れず言うことは、日本人に限らず、誰にでもある程度は難しいことだと思います。きっと、自分と「違う」人や文化に対して、フラットな気持ちを持つこと(自分と相容れない考えの人を、劣っているとか、悪いと決めつけずに)が、大切なこととされている社会なのだろうと想像します。そういえば、一人で貧乏旅行をしていた10代の後半、ロンドンでスウェーデン人やデンマーク人の若者と友達になりました。6人部屋をシェアするうち、ウプサラから来た3人の女の子と仲良くなって、ロンドンで安くて美味しいのはインド料理だとか、パブで昼間からベイリースのミルク割りを飲むことなんかを教わりました。特に、男の子とどう付き合うかという“ガールトーク”が刺激的で、わたしの財布にコンドームが入っていないことを驚かれ、必ず入れるようにとのアドバイスを受けたので、それをしばらく実践していました(笑)。他愛のないおしゃべりのようでも、なぜそうするのかについての論理的見解が彼女たちの頭にはちゃんとあって、理由がとても腑に落ちるものだったんです。

 

夜になると、ワーキングホリディ中の男の子が帰ってきて、みんなでパブに出かけます。デンマーク人、フランス人、オーストラリア人などの彼らは、山野さんの言うように、ビールを飲みながら社会情勢や政治の話を熱心にするのです。最低賃金の話とか、時の政権批判など、英語のつたないわたしには難しかったけれど、同じ若者でも日本の友人とは違うなぁ、と思ったのを覚えています。その違いは嫌じゃなく、むしろ心地の良いものでした。のちに付き合ったデンマーク人の男の子にも、自分のことをいろいろ話しました。それまでは、男の子に「本当のこと」を言うと嫌われると思っていたんです(25年経ったいまでは、伝えるべき本音を伝えて拗ねる人のお守りはわたしの仕事じゃない、と思うようになりました)。

 

そんなわけで、どちらかというとわたしは、思ったことを率直に家族に話すほうだと思います。小さい息子にもそうやって接してきました。良いか悪いかはわからないけれど、単純にそのやり方が自分に向いていると思います。気になったことは、話し合いたいと思う性質です。そもそも、我が家ではわたしの両親も含め、あのロンドンのパブで聞いたような会話をすることが昔からよくあります。息子は新聞や本をたくさん読むからか、そういうときになかなか面白いです。わたしの楽しみは、自分の意見を熱心に語る彼に、ちょっとだけハードルの高い質問や、別の視点を投げかけることです。こんなこと言ったらどう返してくるんだろう、と期待して待っていると、結構な確率でほぉ、と思うようなことを言ったりします。そんなとき、大人になったなぁと嬉しい反面、しんみりもしてしまいます。大人になるってことは、あと数年でこの家を出て行ってしまうということ。それを思うと、夕食のおかずが一品増えます。このあいだも、運転中にラジオでかかったエルトン・ジョンの『YOUR SONG』(レディー・ガガのカバーヴァージョン)の歌詞に息子を重ね過ぎた結果、泣き顔で歯医者に到着。陽子さんの、息子さんとのエピソードの数々も、当のお母さんには大変なんだろうけれど、わたしにはただただ懐かしく感じられてしまって、正直、羨ましい! と思ってしまっています。すみません。坊やがフェンスにしがみついて日本語でお母さんを呼ぶ姿なんか、想像しただけで涙ぐみました。息子が小さかったときは、ほんとにいつも、早く大きくなって自分のことを自分でやってくれ! と願っていたのに、今度は逆を望むなんて、どこまで勝手なんでしょうか。近いうち、自分の母に、娘が家を出たときの気持ちを聞いてみようと思います。

 

そうそう。陽子さんは、誰と比べてもどうしょうもないお母さんなんかじゃないと思いますよ。怒りのはけ口を共有したり、感情を表している息子さんにエールを送るのって、すごく素敵な子育てだなぁと思います。来月、息子さんにも会えるでしょうか。まずは明日、イデーに行ってくるつもりです。それでは、また。

 

有里枝

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次回更新は6/8(金)の予定です。ガラス作家の山野・アンダーソン・陽子さんからのお返事です。