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for modern family

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DATE 2018.02.23

第2回:長島有里枝より
「子育ては複雑に縒り合わされた紐みたいなもの」

女性は子どもを産むとみんな「はは」になる。当たり前のことだけど、みんなそれをどう受け入れ、日常を送り、自分の生き方を新たに手にするのでしょうか。この連載では、クリエイターとして活躍する二人の「はは」と「ハハ」に手紙をやりとりしていただきます。それぞれの悩みや愚痴、ときに葛藤、あるいは日々の喜びから、あなたや私の「はは」としての生き方のヒントがみつかるかもしれません。

長島有里枝さんから山野・アンダーソン・陽子さんへ。

 

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山野・アンダーソン・陽子さま

 

こんにちは、お手紙楽しく拝読しました。

初めてお話しするのに、初めてとは思えないような妙な親しみを感じています。いただいたお手紙で息子さんのことを読んだせいか、すでにご家族にまで会ったことがあるみたいな気分です。これから陽子さんと呼んでいいですか? わたしのことも、ファーストネームで呼んでください。

 

外国に長く住むって、どんな感じでしょうか。友達にも、フランスやアメリカで長く暮らしている人がいます。わたしはアメリカにトータルで3年ほど住んでいましたが、最後はなんだか辛くなって日本に帰ってきてしまいました。それが1999年のことです。陽子さんがスウェーデンに行かれた2001年から、実はわたしもスウェーデンでのレジデンスプログラムに一年間参加することが決まっていました。ところが妊娠してしまい、現地で産むことも考えたのですが、いろいろな事情でそれはかなり難しそうだったので、行くのを諦めました。いまになってみたら、行っておけばよかったなぁと思います。その子は男の子で、今度の春で高校2年生になります。彼が2歳のときシングルマザーになったので、子供は彼だけです。最近は子育てのゴールが近づいてきたからか、そろそろまたどこか、別の場所に住みたいなぁという気持ちが湧いています。

 

スウェーデンの保育園事情、とても面白いですね(笑)。確かに、そんなに寒いのになんで外に? と一瞬、思うけれど、そんなことを言っていたらきっと一年のほとんどの時間を部屋で過ごさなくてはならなくなってしまう国の人だからこその発想なんでしょうね。とっても頼もしい子育てだと思いました。そして子供ってなぜか寒くてもへっちゃらで、楽しいことに没頭できる人たちですよね。高校生の子でさえ、雪が降るとじっとしていられないみたいで、外に遊びに行きます。

 

息子が小さかった頃は埼玉県に住んでいたのですが、保育園探しには大変な苦労をしました。日本には待機児童問題というのがあって、フリーランスの仕事をしているわたしは初め、保育園に子供を預けることができなかったんです。夫はアメリカに住んでいて、すでにシングルマザー状態だったわたしはそれでも紆余曲折を経て、すぐに子供を預けることができたのですが、希望していた自宅近くの園には入れず、すべてから遠い田んぼの真ん中の私立の保育園に息子と五年間通いました(途中で園の近くに引っ越しもました)。ところが、この誤算は幸運の始まりでした。そこが素晴らしい養育方針と保育士さんに恵まれた、最高の保育園だったからです。陽子さんの息子さんが通う園と同じように、息子の保育園も子供をほとんど一日中外で遊ばせてくれるところでした。どうやら、そうじゃない保育園も、日本にはたくさんあるみたいなんですが。息子の園では悪天候のときどうしていたのか、ちゃんと覚えてはいないけど、関東では雪が珍しいので、雪が降ると必ず防寒をして、外で元気に遊んでいた気がします。園にはいつも、着替えを5回分ぐらい預けておくのですが、そのうち3、4回分はほぼ毎日、泥だらけで戻ってきました。そして毎晩、息子を寝かしつけたあと、帰宅後すぐに水を張ったバケツに漬けておいた洗濯物を、お風呂で手洗いしました。そうしないと、泥が詰まって洗濯機が壊れるんです。どれだけ洗っても白い下着は全部、しばらくすると泥に染まって薄茶色になります。子供の着替えにはわたしも、それなりに頭を悩ませていたような気がします……。

 

ところで、この連載のタイトル。「はは」と「ハハ」とありますが、どちらがどちらなんでしょう。わたしには、自分が「ハハ」だという気がまったくしません。どちらかといえば「はは」ですが、これもそこまでしっくりくるわけではないのです。漢字の「母」か、英語の「mother」が一番自分らしい気がします(momとmommyも違う気がする)。それから、リードに「女性は子供を産むとみんな『はは』になる」のが「当たり前のこと」だと書いてあるのですが、この16年を振り返ると本当にそうだったかな、とわからなくなります。子供を産む前、わたしは自分のことをもっとずっといい人だと思っていた気がします。それから、自分がこんなにもいろいろと苦手で、「普通」が苦しかったり、うまくできなかったりするとも思っていませんでした。怒ったり、泣いたりしてきた記憶と、子供が愛おしくて、楽しかった記憶とが、複雑に縒り合わされた紐みたいな感じ。お子さんがまだ小さいからピンとこないかもしれないし、スウェーデンは子育てする人に優しいイメージがあるから、感じることも違うのかもしれないですが、陽子さんにはどんなイメージですか?

いきなり立ち入った話をし過ぎましたら、ごめんなさい。その場合は次回のお返事で、話題を変えてくださいね。

 

あ、そうそう。うちの息子もすごい食いしん坊で、5歳の時にはもうお子様メニューじゃなく、大人と同じものをぺろりと平らげていました。それでは、また。

 

長島有里枝

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次回更新は3/9(金)の予定です。ガラス作家の山野・アンダーソン・陽子さんからのお返事です。