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DATE 2018.05.20

34 『ふしぎの国のアリス』「私をお食べ」と誘うケーキ

子どもと一緒に読んで作って食べたい「おいしいおはなし」。今日は三姉妹のために語ったおはなしから生まれて世界一有名になったあのふしぎの国の物語。

ふしぎの国はどこにある? それはうさぎの穴の中

子どもの頃「おはなしをして!」とせがんでしてもらった自分だけのおとぎ話。大人になるとその全貌はおぼろげになってしまいますが、おはなしを聞いていた時のわくわくやトキメキは覚えています。おとぎ話はいつもするりとふしぎの国に連れて行ってくれたものです。

ある夏の晴れた日に、3人の小さな女の子たちが「おはなしをして!」「面白くなきゃ嫌よ!」とせがんで語ってもらったのが『ふしぎの国のアリス』です。幸いなことに、おはなしの語り手であるルイス・キャロルが彼女たちのために文字にまとめてくれたので、世界中の子どもやかつて子どもだった大人たちはページを開けばいつでもふしぎの国に行くことができます。そのふしぎの国へのエントランスは世界中で最も有名。うさぎの穴です。時計を見ながら慌てて走っていった白うさぎを追いかけてうさぎ穴に飛び込んだアリスは、地球の反対側へ出るのかと思うほど、ついにはうとうと夢を見るほど長い間うさぎの穴を落ち続けます。そして穴の底からうさぎの後を追ってたどりついたのは、広間でした。そこでアリスはあの「私をお飲み」という瓶入りの飲み物と、「私をお食べ」というケーキを食べて、大きくなったり小さくなったりして、ふしぎの国を自由自在に歩き回るようになるのです。

ところで、ふしぎの国の住人たちはぜんぜんかわいくありません。すぐには愛しにくいキャラクターばかりです。それをよく表したすばらしい挿絵が子どもの頃にはちょっと不気味に感じられて、この本にはちょっととっつきにくさを感じていたものです(今見ると、不気味かわいいのですが)。不機嫌なイモムシ、カエルみたいな顔の召使いは感じが悪いし、皿を投げまくる料理女に荒っぽい公爵夫人、赤ちゃんはブタになっちゃうし、三月うさぎと帽子屋はナンセンスな会話を続けるし、女王様だってすぐ「首をちょんぎれ!」と叫びます。そして、ニセ海ガメとグリフォンはへんな歌を延々と謳い続けます。

そんな思い通りにならない感じや不条理、そしていろんなデタラメこそがおとぎの国の魅力です。デタラメだからこそ、ただただ楽しい。夜見る夢も、なんだかデタラメな設定なのに、妙に楽しいことがあるように。そして、そのデタラメが加速していき私たちはふと気づきます。あ、これは夢なんだ、と。アリスもそうやって、ふしぎの国から帰還します。

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「その者の首をちょんぎれ!」と女王はあらんかぎりの声をふりしぼってどなりました。だれも動こうとはしません。

「だれがあなたのことなんか気にするものですか」とアリスは言いました(このときにはもうふだんの背たけにもどっていたのです)。「あなたがた、たかが一組みのトランプのくせに!」

それを聞くと、トランプのふだはみんな空中に舞いあがり、アリスめがけてひらひらと落ちかかってきました。(P.176)

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アリスが夢から目覚めると同時に、私たちもアリスと一緒にふしぎの国で過ごした時間を惜しみながら、本を閉じます。そして思い出すのはやっぱり、アリスがふしぎの国で最初に食べた「私をお食べ」ケーキはどんな味だったのかな、ということ(「私をお飲み」ドリンクの味は「……さくらんぼのパイと、カスタードと、パイナップルと、七面鳥のあぶら肉と、タッフィーと、焼きたてのバター・トーストを混ぜたような味でした」(P.9)と書いてあるのですが、「私をお食べ」ケーキの味は言及されていないのです)。そこで、「ふわふわでむっちりで、甘くて酸味があってスパイスが香って、カリカリしている」ケーキを作ってみました。大丈夫、食べても背たけは変わりませんヨ。

『ふしぎの国のアリス』ルイス・キャロル著、生野 幸吉訳、ジョン・テニエル 画(福音館書店)暑い夏の午後、庭でぼんやりとお姉さんに本を読んでもらっていたアリスは、うさぎが時計を見ながら慌てて走っていくのを見かけます。その後を追って、不思議な世界に迷い込んだアリスは、その住人たちとナンセンスでシュールな対話をしながら、奇妙な冒険をしていきます。アニメ映画やキャラクターとしても世界中で大人気のアリスのおはなしです。