16『続あしながおじさん』サリーと強敵さんの外ごはん

子どもと一緒に読んで作って食べたい「おいしいおはなし」。今日は、乙女心とスコットランド訛りを学べる1冊。

あの人と外で食べれば格別!ベーコンエッグとイングリッシュマフィン

〝続〟といえば、先日20年ぶりの続編『T2 トレインスポッティング』を観ていたら、前作と同様、字幕を追いながらもそのセリフが脳内で東北弁に変換されるという事態が起きました。なぜそんなことが起きるのか? それは子どもの頃にこの『続あしながおじさん』を読んだことが原因です。

『あしながおじさん』といえば、孤児院育ちのジュディが大学の学費を出してくれた投資家に書き綴った手紙で構成されている書簡体の小説で、読んだことがなくてもタイトルは知っているという人も多い名作。でも、その続編である『続あしながおじさん』の存在はそれほど知られていなくて、「えっ、続きあるの?」と驚く人も少なくないでしょう。

『続あしながおじさん』は、前作のウン十年後……ではなく、前作のすぐ続きの物語。ただし主人公は前作のジュディーから「ジュディの同級生のサリー」に、場所は大学から「ジュディが育った孤児院」に変わります。大学を卒業後、のんびり社交界に生きていたサリーは、ジュディに孤児院の院長に指名されます。そのことに困惑している返信の手紙から、おはなしは始まるのです。

いやいやながら(まんまとその気にさせられて)引き受けた院長職ながら、やるとなったらとことん孤児院の改革に邁進していくサリー。彼女が綴った、主にジュディへの手紙を通して、読者は孤児院の生活の変化の様子や日々起きる事件を追いながら、サリーの大胆さやユーモアに触れ、そして彼女の心の揺れ動きをなぞっていくことになります。

本書の原題は「Dear Enemy」、つまり「強敵さんへ」です。この強敵さんとは、孤児院の嘱託医のマックレイ先生のことで、本書の重要な登場人物です。気難しい先生と頑固者サリーはことあるごとに衝突し、サリーは「強敵さんへ」と手紙を書いて、主張を伝えたり、依頼をしたり、仲直りしたりしながら、お互いの理解を深めていきます。

そして冒頭の話に戻しますと、まさにこの二人こそが、「トレインスポッティングが東北弁に脳内変換される」原因です。マックレイ先生はスコットランド人で、「サンディ(注:先生のこと)とつきあってから、いろんなかわった言葉おぼええただ(P.96)」というサリーはスコットランドとアイルランドにルーツを持っている人。そんな二人から訛りが飛び出す様子が、ジュディへの手紙にしばしば出てくるのです。たとえば、一番最初の訛りの登場は強烈です。

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そのあとすぐ、マックレイ先生がお見えになったので、サイラス閣下のお話をことこまかにおつたえしました。(中略)

「リペット院長だってが! あのばがめ、年よりのくせに口ばしえぐで(おしゃべりで)! あの評議員もさがし(ましな)男だばええどもな!」と、先生はうなりました。

 この先生は、興奮すると、スコットランドなまりがまるだしになります。(P.60

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突如文中に登場する東北っぽい訛り言葉に、小さな読者は、外国の言葉にも方言があるんだ! ということを発見しながら、スコットランド訛り=東北弁、ということをインプットされてしまうわけです(実際、スコットランドも東北地方もどちらも島国の北部に位置するという地理的条件が似ているし、改めて聞くと発音の感じも似ている気がします)。新潮文庫版の訳では、このスコットランド訛りが関西弁ふうになっているのですが、それによってマックレイ先生のキャラクターが全く変わってしまうことにびっくり! 訳者によって味わいの変わる翻訳文学の面白さも、この本は教えてくれるわけです。

それでは、仲良しと絶交を繰り返すサリーと強敵さんのとってもいいシーンのひとつから、今日のレシピをご紹介します。それは、ふたりが気分転換に出かけたドライブの食事。先生に電話してドライブに誘ったサリーは、二人ぶんにちょうどいいフライパンを持ってくるように先生に言って、自分はたまごとベーコンとマフィンとお菓子とコーヒーの入った魔法瓶をバスケットに詰めます。そして気持ちの良い夕暮れ、二人は、焚き火でベーコンと卵を焼いて、外ごはん。外で食べる食事は、それがどんなに簡素なものでも忘れられないほどおいしく感じられ、一緒に食べる人同士の心をぐっと近づける大切な時間になるものです。

『続あしながおじさん』J・ウェブスター著、北川悌二訳(偕成社文庫)孤児院育ちのジュディに大学へ行くチャンスをくれた「あしながおじさん」に書いた手紙で構成された『あしながおじさん』の後日譚。ジュディの大学の同級生のサリーが、彼女から孤児院の院長に指名されるところから物語は展開し、物語を成すサリー発の手紙には、孤児院で起きる様々な事件、子ども達が変化していく様子が報告され、また、サリーの仕事への意識や結婚観なども綴られます。そして次第に、嘱託医のマックレイ先生と婚約者ゴードンの間で揺れ動く乙女心が手紙の中にだんだんと表れてきて……物語のクライマックス、全てを決定づける大事件が起きるのです。

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