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DATE 2018.03.09

31『ドリトル先生航海記』先生の作ってくれた晩ごはん

子どもと一緒に読んで作って食べたい「おいしいおはなし」。今回は、動物と話せる博物学者と動物たちのおはなしをご紹介。

その台所は世界一ごはんがおいしい場所

動物とおしゃべりできたら……という誰もが心に抱く夢から生まれた「人と動物とのコミュニケーション」を描いた物語はたくさんありますが、動物の言葉を、しかもさまざまな生き物の種類別にその言語を研究して話せるようになったという人物が登場する物語はひとつしかないでしょう。ドリトル先生とその冒険の物語です。ドリトル先生は、犬や猫、鳥たちはもちろん、小さな昆虫や魚たちの言葉も研究し、習得しています。でも、いったいどうやって?
その習得のコツが語られているのが、シリーズ2作目の『ドリトル先生航海記』です。この本は、エピソードとしては一番古いもので、語り手で助手のスタビンズ君と出会った頃のおはなし。ドリトル先生と出会ったスタビンズ少年が、先生のように動物たちの言葉を学びたい、と先生の家族のひとりであるオウムのポリネシアに相談した時のこと。英語もできる賢いポリネシアの答えはこうです。

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鳥や動物の、ごく細かいところにも注意を払うことがたいせつです。これがつまり観察力というものです。歩きかた、頭の動かしかた、羽ばたき、においをかぐときの鼻の動かしかた、ひげの動きぐあい、尾のふりかたなど。もし、動物ことばを習いたいのでしたら、はじめはまず、こんな小さなことにも気をつけねばなりません。いろいろの動物たちは、たいていは舌では話をしないようです。舌のかわりに、呼吸や、尾や、足を使います。(P.58)

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大人になって読み返してみると、このポリネシアの言葉はとても大切なことを言っている気がしてきます。動物だけでなく、何かを、誰かを知ろうと思ったら「ごく細かいところにも注意を払うことがたいせつ」です。そして、人間は言葉を得た代わりにその繊細な「舌のかわり」のコミュニケーション能力を失ってしまったのかもしれません。それを取り戻す訓練をすることは、動物ことばを習得できなかったとしても、世界を広げて豊かなものにすることなのではないかな……そんな気がしてきます。
さて、『ドリトル先生航海記』では、そのタイトル通りご一行は船に乗って海を渡りある島へ出かけます。ドリトル先生たちは、その準備の最中に殺人事件の裁判に巻き込まれて犬と共に証言台に立ったり、立ち寄った町で闘牛をやめさせるために大きな賭けに出てみたり(このときのポリネシアの立ち回りが痛快です!)、小さな熱帯魚と出会って海の秘密を教えてもらったりします。そんなさまざまな事件は、助手のスタビンズ君によって、彼の感じたことや見たこと、時に思ったことなどを織り交ぜながら、丁寧に綴られていきます。スタビンズ君というすばらしい語り手の存在もまた(「シャーロック・ホームズ」シリーズの語り手であるワトソン君のように)、このおはなしの大きな魅力です。たとえば、本の冒頭でスタビンズ君が描写している先生のおうちの台所の居心地の良さはこうです。「それは、とてもすてきな台所でした。(中略)世界中でいちばんりっぱな食堂よりも、食べ物のおいしい場所だと思いました。(P.38)」
たしかに、家族や友人みんなとおいしくごはんを食べられる場所は、世界で一番素敵な場所です。ちなみに、この時にドリトル先生がスタビンズ君に作ってくれた晩ごはんは、イギリスの定番、ソーセージ料理でした。

『ドリトル先生航海記』(ヒュー・ロフティング著、井伏鱒二訳、岩波書店)さまざまな動物の言葉を理解し話すことのできるドリトル先生は、助手となったトミー・スタビンズ少年と、以前の旅で知り合ったアフリカの王子(でオックスフォード大学に留学中の)バンポ、犬のジップとオウムのポリネシアを連れて南太平洋のクモザル島へ冒険に出かけます。著者ロフティングによる味のある挿絵も、本シリーズの大きな魅力です。