Lifestyle magazine
for modern family

Lifestyle magazine
for modern family

DATE 2018.01.30

28『たのしい川べ』ひねくれ者の機嫌も直すキャベツと肉のフライ

子どもと一緒に読んで作って食べたい「おいしいおはなし」。今回は、四季折々の楽しみに満ちた居心地の良い田舎暮らしを味わえる一冊をご紹介します。

個性豊かな登場人物と詩情あふれる自然の描写にときめく

たゆたう大海原のきらめきや森の濃い緑の薫りやふわふわ降ってくる雪ーー生き生きとした自然に触れた時の感動を、大人になると忘れてしまいがちですが、それを思い出させてくれる美しい描写が、このおはなしの中にはたくさんあります。たとえば、主人公が生まれて初めて川を見たときのこと。

***

このつやつやと光りながら、まがりくねり、もりもりとふとった川という生きものを見たことがなかったのです。川はおいかけたり、くすくす笑ったり、ゴブリ、音をたてて、なにかをつかむかとおもえば、声高く笑って、それを手ばなし、またすぐほかのあそび相手にとびかかっていったりしました。

***

このおはなし『たのしい川べ』は、四季折々の楽しみに囲まれた、魅力的な田舎暮らしのおはなしです。そして、その主人公は動物たちです。

土の中から外の世界に飛び出して地上の世界に魅了されたモグラ君。好奇心旺盛で思慮深く(落ち込むこともあるけれど)朗らかな彼は、詩作が好きできまじめで優しい川ネズミ君と出会い一緒に川べで暮らし始めます。大きなお屋敷に住んでいるのは、派手好きで何かに夢中になると何も見えなくなってしまうヒキガエル君。そして、年長で社交嫌いだけど責任感の強いアナグマ氏は、みんなをあたたかく(時に厳しく)見守ります。他にも、ちょっとイジワルなウサギたちに人懐っこいカワウソ親子、かわいいハリネズミや野ネズミのチビッコたちが登場します。

彼らは、ご馳走を詰めたバスケットを持ってピクニックにでかけたり、暖炉を囲んで語り合ったり、クリスマスをお祝いしたり、季節を味わいながら暮らしています。そこには、著者の彼らへの優しく愛情に満ちた眼差しがあり、自然の中で生きるその姿によく似合うキャラクターを与えられているのだな、と感じられます。

そして、この『たのしい川べ』の面白いところは、擬人化されている動物たちと人間とが、別の次元の存在ではなく、同じ世界に暮らす隣人として描かれているところです(それもやはり、著者にとってこの動物たちが大切な隣人だからなのかもしれません)。特に人間と深く関わるのは、その性格からいろいろなトラブルを引き起こすヒキガエル。人間の社会の警察、裁判官などにお世話になりついには牢獄に繋がれ、出会う人たちを巻き込んで大騒動を引き起こします。

牢獄に繋がれ嘆くヒキガエル君を元気付けようとするのも、人間の女の子。落ち込んでご飯を食べようとしないヒキガエル君に、彼女はキャベツと肉のフライを差し入れるのです。そのおいしそうなほかほかキャベツの匂いは、ふてくされてブルーなヒキガエル君の気持ちを前向きにポジティブに盛り上げます。どんなにヘソを曲げていても、おいしそうな匂いにはやっぱり誰も敵わないのです。

他にも、おいしそうなシーンがしばしば登場する『たのしい川べ』ですが、そういえば読み返してみて「ええっ!?」と驚かされた一品がありました。それは……

***

「なんだ、これは、オールド・バートンじるしじゃないか。(中略)さあ、これですこし、お酒をあたためてのめるぞ。道具を用意してくれたまえ、モグラ君。ぼくは、せんをぬくから」

ビールのおかんをするには、手まひまはかかりませんでした。

***

ビールのお燗って!と思いましたが、調べてみると、今もイギリスでは、ホットワインのようにスパイスや甘さを加えて温めたエールビール「Mulled Ale」が冬のカクテルとして楽しまれており、ドイツやベルギーなどでも温めて飲むビール「Glühbier」は伝統的な冬の飲み物のひとつだそう。おはなしのおかげでまたひとつ、知らなかった味を知りました。キャベツと肉のフライとご一緒に、みなさんもお試しあれ!

『たのしい川べ』(ケネス・グレーアム著、石井桃子訳)自然に対する著者の愛情に満ちた眼差しから生まれた物語は、息子のために書き綴った手紙が原型になって生まれたそう。モグラとネズミの暮らしのおはなしを中心に、車泥棒をして牢獄に繋がれたヒキガエルが脱獄しほうほうの体で家へたどり着くまでの冒険とが織り交ぜられています。美しい挿絵は、『くまのプーさん』の挿絵も手がけた画家のE・H・シェパードによるもの。2冊の見開きの絵地図を比べて見ても楽しいです。