24『秘密の花園』腹ペコの子どもたちに焼きたてぶどうパン

子どもと一緒に読んで作って食べたい「おいしいおはなし」。今日は、土に触れ植物を育てながら、元気を取り戻す子どもたちのお話を。

空腹の喜びを教えてくれた秘密の庭仕事

「メリー・レノックスが、おじさまに引き取られてミセルスウェイト屋敷に来て住むようになったとき、こんなみっともない子どもは見たことがない、とみんなはいいました。それはたしかに本当でした。」(P.01)

これは『秘密の花園』の冒頭の2行。あんまりな紹介のされ方ですが、実際、主人公のメリー・レノックスは、インドからイギリスの叔父の家にやって来た当初、やせこけて顔色の悪い、高慢ちきなお嬢さまでした。

だから物語の初めの頃、登場人物はしょっちゅう「むっ」としています。世間知らずのメリーの高飛車な物言いに、庭師のベンや女中のマーサは「むっ」とし、一方メリーも、田舎者のベンやマーサーのぶしつけな物言いに「むっ」。そんな小さなぶつかり合いのなかで、大人たちはメリーのことを少しずつ理解し、メリーは心を開いていきます。

メリーに影響を与えるのは、人間だけではありません。お屋敷を囲むヨークシャー地方の自然も、このおはなしの大切な登場人物であり、メリーの大切な友達になります。庭で出会ったコマドリがメリーを気に入り、メリーがコマドリを人間みたいに感じるように、庭の植物たちも、そして空や風や光も、それぞれが語りかけ、メリーを変えていきます。

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群がり生えている植物の根からは芽や茎がめざましい勢いでのび出ていました。クロッカスの茎の間には、開きかけている黄や紫の花がちらちら見えます。半年前のメリーだったら、世界がこんなに生き生きと目をさましかけているのに気がつかなかったことでしょう。でも今のメリーは何ひとつ見逃しはしませんでした。(P.235-236)

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初めて巡る季節に出会い、心奪われるメリー。彼女は、お屋敷の一角に見つけた秘密の花園で植物を育てながら、その美しさや力強さに励まされていきます。読みながら私たちも、忘れられ閉ざされていた庭が、息を吹き返し、生き生きと蘇っていく様子にワクワクさせられます。悲しいことやつらい思いをした人々を、自然が癒すことができるのは、こんなふうに春が来るたびに彩り豊かに蘇り、生きる歓びを教えてくれるからではないでしょうか。

閉ざされていた心の扉が開き、自然の生きる力や美しさに触れるようになると、お腹が空くようになるのもホントのこと。最初の頃、何にも食べたくないし、何もおいしいと思えなかったメリーも、外で過ごすようになってしばらくしたある朝「おなかがすくというのはこういうことなのだな、と思いました。」(P.67)と食欲に目覚めます。お腹が空くようになれば、もう大丈夫。

そして、お屋敷にずっと引きこもって心を閉ざしていたもう一人の子どものコリンも、メリーと地元の少年ディッコンの子どもらしい生命力に感化され、庭の植物を育てながら、生きる力を取り戻していきます。

そうやって秘密の花園で庭仕事に励む子どもたちに、ディッコンのお母さんが差し入れしてくれたのが、焼きたてのぶどうパンです。「パンは清潔な青と白のナプキンにきっちりと包まれていましたから、まだ温かみが残っていました。それを見た二人は驚いたり喜んだりで大騒ぎでした。」(P.382)というのも、メリーとコリンはお屋敷の大人たちに内緒で庭仕事をしていたので、お屋敷ではご飯のおかわりを我慢していたから!

物語の冒頭、灰色の風が吹きすさぶ荒野の景色の中に描かれるメリーの姿はモノトーンの絵のように感じられました。しかし読み進むにつれ本の中には次第に青空が広がり、暖かな日が射してくるのが感じられます。そして、最後にはページいっぱいに広がる色彩と弾ける笑顔にあふれた風景に、読み手はたどり着くことができるはずです。

『秘密の花園』F・H・バーネット著、猪熊葉子訳(福音館書店)両親を亡くし、インドからイギリスはヨークシャー地方の叔父の屋敷に引き取られたメリー。屋敷の周りはムーアと呼ばれる荒野が広がり、大きなお屋敷にひとりぼっち。わがままお嬢さんとはいえまだ子ども。子どもらしい好奇心に誘われ、大きなお屋敷と庭を舞台に探検を始めるメリー。季節は冬から春へと移り変わり、メリーは女中のマーサや庭師のベンに教えてもらいながら、ヨークシャーの大自然を楽しむようになります。そして、お屋敷の二つの秘密を見つけ、彼女のやり方で閉ざされていた扉を開くのです……!

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