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DATE 2017.07.28

21『ツバメ号とアマゾン号』海賊と探検家のための飲み物

子どもと一緒に読んで作って食べたい「おいしいおはなし」。今日は、夏休み気分をとことん味わえる、『ツバメ号とアマゾン号』をご紹介。

ごっこ遊びの魔法にかかればレモネードは特別な飲み物に

子どもの頃の遊びといえば、忘れてはならないのが「ごっこ遊び」です。お医者さん、コックさん、アイドルや歌手、ヒーローと怪獣、電車の運転手さんと車掌さん、あるいは電車や飛行機そのもの……子どもならではの「なりきる」才能を存分に発揮し、それはもういろいろな役に扮して、ごっこを真剣に楽しんだものです(先日も、大人のおしゃべりの傍らである子どもが人形を相手に何か話しているので、何をしているのか聞いてみたら「今、私は幼稚園の先生なのだ」とのことでした)。そんな「ごっこ遊び」の記憶のある人は、『ツバメ号とアマゾン号』の書き出しを、ニヤリとしながら読むのではないでしょうか。

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ロジャが、湖からハリ・ハウ農場までの、急な上り坂の野原を、右、左、右、左と大きくジグザクに駆け上がっていく。

(中略)

農場は風上だから、ロジャは今、帆船が風上に向かって走るときのジグザグな走り方、タッキングをしているのだった。

(中略)

ロジャは、まっすぐに、おかあさんのところへかけよりたかったけれど、今はお茶輸送のクリッパー(快速帆船)カティサーク号になっているので、風に向かってまっすぐ進むわけにはいかなかった。

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この「帆船ごっこ」をしているロジャは、物語の主人公の4人兄弟姉妹の末っ子。このあと、物語にはロジャの兄弟姉妹ーー長男ジョン、長女スーザン、次女ティティ、そして末っ子のロジャーーが登場し、「探検ごっこ」が始まります。ヨット「ツバメ号」の「船長、航海士、船員、ボーイ」となった彼らは、無人島でキャンプしながら海=湖を探検し、自称「海賊」のナンシイ&ペギイ姉妹が操る「アマゾン号」と出会い、対決することになるのです。

この物語の何がすごいって、彼らのごっこ遊びが本格的なこと。ジョンたちの探検ごっこは、本当の知識や技術に裏付けられています。キャンプや釣りについてはもちろん、読んでいてなにより尊敬して憧れたのが、彼らのヨットの知識と操縦技術です。船長のジョン以下ツバメ号の乗組員兄弟も、アマゾン号の海賊姉妹も、本当にすばらしく帆船を操る様が描かれているので、この本を通して、冒頭にまずロジャが帆船の走り方を教えてくれたように、ヨットの知識と操作の仕方を知り、おはなしのおしまいの頃には、自分もツバメ号を操れるような気がしたものでした。

改めて読んだ文庫版には、文学者の上橋菜穂子さんがあとがきでこう述べています。「『ごっこ遊び』は『現実』を向こう側に置き、『休暇の光』を思いっきり味わうための呪術であり、合言葉だ」(P.329)。なるほど、時代も国もまるで違う彼らの物語に(その本格的なことを羨ましく思いながら)親近感を抱いたのは、「ごっこ遊び」が、魔法の合言葉だからだったのか、と腑に落ちます。そして今読んでも、読む人の心に毎日夢中になった自身のごっこ遊びの記憶、楽しかった時間を蘇らせてくれるのです。

ほら、アマゾン海賊のナンシーが、熱い紅茶を「ホットラム」、樽に入ったレモネードを「ラム」と呼んでいるように、麦茶やジュースを「ビール」ってことにして大人の真似してプハーッと飲んだことを、懐かしく思い出すはずですよ。

『ツバメ号とアマゾン号』(上下巻)アーサー・ランサム著、神宮輝男訳(岩波少年文庫)イギリスの文学者アーサー・ランサムが書いた全12巻の子どもの物語の1作目。主人公はウォーカー家の4人。おとうさんからの電報が届いたところから、物語が始まります。子どもだけでのキャンプのお許しを得た4人は、おかあさんに手伝ってもらって支度をし、ツバメ号で湖に浮かぶ無人島にキャンプに出発。4人はツバメ号の乗組員になりきり、キャンプ生活をしながら湖を探検し、「アマゾン号」との対決、宝探しなど冒険をしながら、美しい大自然の中でひと夏を過ごします。