Lifestyle magazine
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DATE 2016.11.08

04『五郎のおつかい』がんばったごほうびに森からの贈り物できのこ汁を

子どもと一緒に読んで作って食べたい、「おいしいおはなし」をご紹介。今回は日本の原風景のファンタジー。

どこか懐かしい日本の風景と不思議な冒険

学校の図書館にあった松谷みよ子の全集は、どれもこれも挿絵がかわいらしくてお気に入りでした。そして何より、おはなしに描かれている夢と現の間にあるような風景や出来事を、主人公と一緒に体験するのが楽しみでした。おはなしの舞台がどこであれ時代がいつであれ、登場人物に親近感がわき、自分だけの空想世界はやっぱりこの世界の続きにあるんだと思えたのです。
全集の第1巻に収録されている『五郎のおつかい』の舞台は、戦後間もなく(実際に物語が書かれたのもそのころです)、お米もお味噌も十分にはまだない頃の日本のどこか。お味噌汁を飲むといいんだけど……と、お乳の出の悪いおかあさんのために、小さな五郎はおばあちゃんの家までお味噌をもらいに行きます。
お味噌の入った重いお鍋を抱えての帰り道。いつもはお母さんと一緒の道のりも、一人で歩いているとどうも様子が違うよう。山道を歩いている五郎は、気を紛らそうとしたのでしょう、「きのこっ、出てこい。行列してでてこいっ。」なんて言います。すると、角を曲がるとずらり行列のきのこ! 五郎は心細かったことなんかすっかり忘れ、手ぬぐいにいっぱいきのこをつんで、晩ごはんはきのこ汁だ!と大得意になります。そうして再び歩き進める五郎の前に次に登場するのはかたつむり。それからお次は……。
日本の里山風景の中に進んでいく物語は、温かな太陽の光や風の音、森の中の草いきれの匂いまで感じられるようで、読み手は五郎と一緒に不思議な大冒険を体験します。

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けれど五郎が、どんなにきれいなものをみてきたか、どんなにたのしくおどったか、雲のおじいさんとどんなお話をしたか、おかあさんもおとうさんも、だれも知りませんでした。
「ほんとにえらい子ねえ。」
おかあさんは、もういっぺん、そういったのでした。(P.114)
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詳しいことは知らなくても、五郎が冒険してきたことはきっと知っているのでしょう。あるいは、おとうさんもおかあさんも子どもの頃には、大自然に見守られてすばらしい冒険をしたことがあるのかも。私たちも忘れてしまっているだけで、小さな頃には鳥や雲や草花やおとぎの世界の存在ともっと近しかったのかもしれません。そんななくしてしまった記憶に触れるような感覚が、松谷みよ子のおはなしの魅力のひとつだと思います。
五郎がきのこ汁にありつけたかどうかは読んでみて知っていただくとして、五郎と一緒におつかいしたんですから、晩ごはんはきのこ汁で。山で採れたてのきのこにはかないませんが、旬のきのこを何種類か入れると、風味も旨味も深まって「日本人でよかった~!」としみじみ思う一杯になります。忘れていた子どもの頃の記憶を探ったりしながら、秋の恵みをたっぷりと味わってください。
「五郎のおつかい」松谷みよ子著『松谷みよ子全集1 貝になった子ども』(講談社)より 五郎は一人でおばあちゃんの家までお味噌をもらいにおつかいに行きます。ひとりで歩く五郎は大自然に見守られながら、重たいお味噌を抱えて山を越え、森を抜け、川を渡り、えっちらおっちら歩きます。道中で五郎が出会った美しい風景、幻想的な体験は、どこか懐かしく、温かな気持ちに誘われます。