ストックホルム在住のガラス作家
山野・アンダーソン・陽子さんが語る
仕事のこと、家族のこと。

スウェーデン・ストックホルムに仲間と共にアトリエを構え、ガラス作家として活動する山野・アンダーソン・陽子さん。彼女がスウェーデンで暮らしはじめて、15年以上がたちます。現在は、夫と3歳になる子どもがいる3人の家族暮らし。彼女に、クリエイターとして、母として、これまでのこと、そして現在、仕事や家庭といかに向き合っているのか話を伺いました。

──山野さんは、日本の大学を卒業後、スウェーデン・スモーランドに渡り、老舗ガラス工房であるコスタ ボダで本格的な吹きガラスの手法を学びます。その後、コンストファク/スウェーデン国立芸術工芸デザイン大学に入学。大学院在学中の2004年には、自身のブランド「YOKO YAMANO」を立ち上げました。

 

「ガラスに興味を持ったのはまだ十代のころ。母親とデパートでやっていたスカンジナビア展を観にいったんです。そこでガラスっていいなと思ったんです。私は、たったひとつのアートピースを作るより、大量生産できるクラフトを生み出すデザイナーという仕事にずっと興味があった。マスクラフトのほうが、その人その人の人生や生活に寄り添うものづくりができるんじゃないかと思っていて。そんな考えもあって、親戚の画家に相談したらガラスを学ぶならやはりスウェーデンがいいと言ってもらって。それをきっかけに、自力で資料をいくつも集めて、大学卒業後の22歳で留学することを決めました」

 

──コスタ ボダでは、3年間みっちりとガラスの技術を学び、北欧を代表するガラスデザイナーで陶芸作家のインゲヤード・ローマンとの出会いもあったと言います。

 

「正直なことを言うとインゲヤードのもとに弟子入りしたつもりはなかったんです(笑)。でも、彼女からヨウコは私の弟子だからと言ってもらえたことは、とても光栄なことでした。ストックホルムの美術大学に行ったほうがいいというのも彼女にアドバイスをもらって修士課程をとることができましたし、一流のアーティストである彼女に、デザイナーとしての考え方とか、ものづくりへの取り組み方など、たくさんの刺激をもらいました」

2017年10月10日から22日まで青山・ユトレヒトで開催された展示会 “ When someone gives us flowers ” の様子。
今回のテーマは “ 花を贈られたら ” 。花の活け方の好みも人さまざま。大きいピッチャーにたっぷりと活けることも、小さなグラスに一輪挿しもできる。

──卒業後は、スウェーデン国内だけでなく、ヨーロッパ各地で展示会を開催。イギリスではマーガレット・ハウエルの目にとまり、彼女のショップにオリジナルのテーブルウェアを置くように。さらに、日本でもdieciCLASKAなど高感度のセレクトショップから展示会の誘いや、製品のオーダーが増えていくようになります。徐々にガラス作家としての地位を確立していく中で、プライベートでは、2009年にスウェーデン人の男性と結婚。2014年には妊娠、出産も経験します。

 

「結婚するということに対しては、すごくお互いにフラットだったと思います。お互いに、お互いが結婚したいなら、してもいいよ、みたいなことを言い合っていましたし(笑)。スウェーデンって、とにかく離婚率が高いんです。家族の形もとても多様ですし、寛容です。男性同士でも、女性同士でも結婚できるし、女性ひとり、男性ひとりでも子どもを養子縁組して持つことができる社会。だから、結婚の重みというのも日本の感覚とはまた違うと思います。私自身も、まあ試しにしてみるかくらいの気持ちで彼と家庭をもつことを選んだ。何か問題があったら別れればいいから、と(笑)。その当時、私は仕事に邁進していたし、やりたいことや目標がはっきりしていた。夫も夫で、自分の創作活動に打ち込んでいました。それぞれ、自分のペースで活動をしていて、それぞれ独立していたんです。だから、結婚したらすぐに子どもを持って……というようなことはまったく考えていなかったんです」

 

──山野さんが妊娠したのは彼女が36歳のとき。結婚して5年目のことでした。スウェーデンは日本と同じく、初産の平均年齢がとても高い〈※注:The World Factbook (CIA)によるとスウェーデンの初産時の母親の平均年齢は29.1歳(2015年調べ)、日本は30.3歳(2012年調べ)〉。さらに、体外受精などの技術も発達していて、40代ではじめて妊娠・出産を経験する人もとても多い。

 

「だから、年齢的に周囲から急き立てられるようなことはまったくなかったです。夫も私の考えを尊重してくれていたから、子どもはいてもいなくてもいいというスタンスでずっといられた。妊娠してからも、仕事は続けていました。スウェーデンは、日本と違い妊娠・出産に対してまったく過保護じゃない国なんです。超音波も18、9週くらいに1度とってそれきりだし、出産も2人目、3人目だったりすると生んで3時間ほどで病院から出て行きなさいと言われる。私自身も、仕事を続けたいなら、妊娠前と変わりなくやっていていいよと、当然のように言われていました。妊娠したからって、新しいことをはじめるのはダメだけれど、それまでの生活を続けるのは何も問題ない。そういう考え方なんです。だから、産む2週間前まで工房でガラスを吹いて、制作を続けていました」

珊瑚のようなガラスのオブジェは、今回の新作。花を束ねる輪ゴムやリボンをストックしておく場所からイメージが湧いたそう。アクセサリースタンドにも向いていそう。

──北欧諸国は「育児がしやすい国」と評されます。それは、女性の社会進出にとても積極的で、産前・産後も働きやすい環境が整えられているから。とくにスウェーデンは、専業主婦率がなんとたったの2%ほどという働く母の国。

 

「お父さんもお母さんも産休を取るのが普通ですし、自分たちの家族のことは、家族全員でなんとかするという考え方が普通に浸透している。だから、女性も社会復帰がしやすいんでしょう。私は、産後2ヶ月半で仕事に戻りました。夫が3時間起きに息子を工房に連れてきてくれて、おっぱいをあげて、また帰っていくという感じ。まあ、それは自営業の家だからの特殊な例かもしれませんが、会社員だとしても、お父さんが1年間、産休を取ることはまったく珍しくないです。だからか、スウェーデンの子どもたちはパパっ子がとても多いのかもしれません。みんなパパが大好きで、お母さんべったりではいられない。だって、ママたちもみんなパパと同じように自分の仕事を持っていますから」

 

──息子さんが7ヶ月半のときには、1週間のロンドン出張が入り、断乳を決意。日本で展示会の予定が入ってしまえば、やっとなじんできた保育園も休ませて一緒に帰国することもある。

 

「母親が働きやすいということは、一方で、どうしても子ども中心でいられない事情も生まれてしまう。それは、どの家庭にもあると思います。そういう時は、私はちゃんと子どもに説明をして、彼が何をいま、なにを欲しているか考えてあげるようにします。大事なのは、彼が理解しやすいようにビジュアルでみせてあげること。言葉で “ 制作 ” だとか “ 展示会 ” だとか言ってもわからない。それより、工房に連れて行って、こんな熱いものを扱っているんだよ、とか、展示会をみせてこうやってみんなに知ってもらっているんだよ、とか知ってもらう。 “ 仕事に行ってくるね、バイバイ ” でドアを閉めてしまうだけだと、子どもは不安なままかもしれない。でも一度、ビジュアルで提示してあげれば “ ああ、この間のこういう感じね ” と、なる。ママは、こうやって生きている人なんだと、それが成長とともに理解してくれれば、それでいいかなと思うんです」

──実際に目で見て、耳で聞いて、体感すること。それを子どもが育つ中で大事にしてあげたいと、山野さんは言います。

 

「経験することって、とても大事だと思います。それを興味のあることからやらせてあげられたら。我が家では〈経験〉はプレゼント。誕生日とか、クリスマスには、なにか買ってあげるとかどこかに連れて行ってあげるとかはナシなんです。そのかわり、普段やってみたいけどしちゃいけないことをさせてあげる(笑)。例えば、机の上に立ってご飯を食べていいよ、とか、洋服を着たままでお風呂に入ってもいいよとか。お風呂は、実際にやってみたんですけど、服がべたっとくっついて気持ち悪かったって(笑)。うん、そうでしょって言って、それでおしまいなんですけど。でも、普段できないことを経験することは、記憶にとても深く残ると思う。その積み重ねを大事にしていきたいです。夫婦でも、こんな体験をさせてあげたら面白いんじゃない?って、よく話をして盛り上がるんです」

今回の展示ではあえて器に花は活けずに。シンプルに並べられたガラスの器からそれぞれの花のある生活のシーンを喚起させる狙い。壁に貼られたポストカードは、ストックホルムの自宅の森で、彼女が摘んだ花を押し花にしたもの。

スウェーデンでガラス作家として活動しながら、家族とともに暮らす山野さん。日本とはまた違う環境でとても自由に、おおらかに、子育てを楽しむ、彼女の新しい連載を現在、準備中。こちらのスタートもお楽しみに!

 

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