父と子で一緒に読んで語り合う、 小沢健二と日米恐怖学会の『アイスクリームが溶けてしまう前に』

今年、19年ぶりのCDシングル『流動体について』の発売を皮切りに、多くのテレビ番組やフジロックフェスティバルへの出演、先日発売されたニューシングル『フクロウの声が聞こえる』でのSEKAI NO OWARIとのコラボなど、世の中をザワザワさせ続けている小沢健二さん。

そのシングルと同日に、彼の初めてとなる絵童話「アイスクリームが溶けてしまう前に」も発売になりました。紹介文には「手づくりの仮装を楽しむ本場アメリカのハロウィーンをとおして、家族のかけがえのない時間を描いた絵童話」とあります。

小沢健二さんは初となる絵童話で、どうしてハロウィーンという題材を選んだのでしょう? そして、そこから見えてくる彼の表現の変わらないものとは? この秋に新しい著書『小沢健二の帰還』(岩波書店)を上梓される映画・音楽ジャーナリストの宇野維正さん、そしてその息子さんのレイくん(8歳)と一緒に、この絵童話を読み解いていきます。

──小沢健二さんが絵童話を発売されました。

 

宇野:小沢健二さんはこれまで様々なかたちでたくさんの文章を書いてきた人で、2010年以降、ライブでは自分の書いた文章をもとによく長い朗読もしています。でも、実は書店やネットで誰でも手にすることができる出版物を出すのはこれが初めてなんですよ。それが大人向けの文字だらけの本ではなくて、絵本出版社の老舗である福音館書店から出版される絵童話というのは、まったく予想できませんでしたね。

 

──レイくんは、小沢健二さんのこと、知ってる?

 

レイ:オザワケンジ、知ってるよ。パパが家やクルマでよく聴いているから。

 

宇野:知ってるのは最近のやつでしょ?

 

レイ:ハネダオキッ!ってやつ。

 

宇野:「流動体について」ね(笑)。

 

レイ:あと、イスラム国の歌。

 

宇野:イスラム国? あ、「神秘的」ね。あれはイスラム国の歌じゃなくて、「イスラム教の詩のように」って歌ってるんだ。

 

レイ:テロとは関係ない?

 

宇野:関係ない。イスラム国ってニュースかなにかで見たの?

 

レイ:そう。みんな機関銃持ってバンバンやってた。なんか怖そう。

 

宇野:(苦笑)。セカオワと一緒にやった新しいやつも聴いたでしょ?

 

レイ:聴いた。前にセカオワのライブに連れて行ってくれたよね。ステージがすっごく大きくて、お客さんみんなの腕輪がキラキラ光ってて、「RPG」とか「Dragon Night」とかラップのやつ(「ANTI-HERO」)とか、ボクが知ってる曲もたくさんやってくれて、楽しかった。長かったけど。

 

宇野:2時間以上あったから、子どもにはちょっと長かったね(笑)。

 

レイ:このあいだオザワケンジと一緒にエムステに出たのも一緒に見たよね。フックロオノコオエガキコエルッ! あれ、『ガフール』の歌?

 

宇野:そういえば『ガフールの勇者たち』の絵本シリーズ、バアバに何冊か買ってもらって読んでたね。同じフクロウだから、もしかしたらちょっと関係あるかもしれない。ゴメン、パパ、『ガフール』ちゃんと読んだことないんだ。

──『アイスクリームが溶けてしまう前に』はパパと一緒に読んだの?

 

レイ:うん。ハロウィーンの話。トリック・オア・トリートメント!って、ボクもやりたくなった。

 

宇野:トリートメントじゃない(笑)。そういえば、やったことないよね。もし仮装するなら何になりたい?

 

レイ:オバケ! (ページをめくって)このオバケになりたい。

 

宇野:これだったら、シーツ被って顔を描いたらすぐできるね。パパとママは準備するのが楽だな(笑)。

 

レイ:でも、足はどうするの? オバケは足がないよ。

 

宇野:外国のオバケには足があるんじゃない?

 

レイ:足ないよ! (ページをめくって)ほら!

 

宇野:本当だ。じゃあ、シーツの足のところを黒く塗りつぶしちゃえばいい。夜だったら周りが暗いから足がないように見えるよ。

 

──レイくんは、この本のどこが一番良かった?

 

レイ:(表紙と裏表紙をめくって)ココとココ! 仮装の種類がカードみたいにいっぱい並んでる。

 

宇野:ホントだ。ちゃんと全部のページをじっくりと一緒に読んだのに、見返しに一番反応するのか(笑)。

 

レイ:ミカエシって何?

 

宇野:表紙をめくった裏の部分のことを専門用語でそう言うんだ。ここの絵、パパは見落としてたよ。他に気になったところは?

 

レイ:(ページをめくって)この自分の頭を手で持ってる女の子がキモくておもしろかった。パパ、これは作るの難しいよね?

 

宇野:あー、これはパパには無理かも。この女の子、本当は頭からコートをかぶってて、この手で持ってる生首はきっと偽物だよ。

 

レイ:ナマクビ! ナマクビ!

宇野:レイは自分でハロウィーンやったことないじゃない? でも、ハロウィーンのことは知ってる。どうして?

 

レイ:昔、幼稚園でやったことがある。

 

宇野:あー、園内のイベントみたいなやつね。

 

レイ:でも、夜に外を歩いてないから、あれは本当のハロウィーンじゃない。本当のハロウィーンって、夜の街でタンクトップになって「ジャスティース!」ってやるやつでしょ?

 

宇野:日本では、大人がお笑い芸人さんの真似とかをして大騒ぎをしてるのをテレビで毎年映してるよね。でも、この本では三種類の本当のハロウィーンが描かれてる。ひとつは子どもたちだけで仮装して、「チェリッカ・チュリー!」って言っていろんな家を回るハロウィーン。

 

レイ:チェリッカ・チュリー?

 

宇野:中に書いてあったじゃん。「トリック・オア・トリート」って、アメリカ式の発音だと「チェリッカ・チュリー」になるって。

 

レイ:チェリッカ・チュリー! 変なの!

 

宇野:で、ふたつめは家族で一緒になって仮装して、やっぱり「チュリッカ・チュリー!」って言っていろんな家を回るハロウィーン。でも、レイはどうせやるなら、子どもだけでやりたいでしょ?

 

レイ:家族と一緒にやるのは、もっとちっちゃい子じゃない?

 

宇野:そうとも限らないけど、友だちとやったほうがきっと盛り上がるよね?

 

レイ:うん! シュウジやライトやリイチと一緒にやりたい!(※友だちの名前)

 

宇野:で、三つめは子どもが寝てから、大人だけで楽しむハロウィーンのパーティー。日本では、この三つめの大人のやつばかりテレビで取り上げてるんだ。

 

レイ:子どもだけでやったり、パパやママとやってる子もいるの?

 

宇野:最近は、流行ってるって話をよく聞くよ。同じ東京でも、パパとママとレイが住んでる町より、もっとオシャレなところに住んでる子どもたちとか。

 

レイ:アメリカ人がいっぱい住んでるところ?

 

宇野:そうとも限らないけど、そうだね、アメリカ人もいっぱいいそうな港区の子どもたちとかはやってる子が多いかも。

 

レイ:ミナトクノ、ニチヨウノヨルハシズカッ!

 

宇野:また「流動体について」の歌詞だ。よく覚えてるね(笑)。

 

レイ:パパがいつも聴いてるからさ。

宇野:そういえば、今日はこれから友だちと一緒に神社の秋祭りに行くって言ってたよね? 日本の神社の秋祭りと、ハロウィーンって、ちょっと似てるんだ。どっちも、もともとは秋の収穫を祝うお祭りだったんだよ。

 

レイ:シュウカクって田んぼの?

 

宇野:そう。田んぼとか、畑とか、レイの好きなリンゴやナシの木とか。東京だと、もうほとんど関係なくなっちゃったけどね。あと、お祭りに行くと水飴とか売ってるでしょ?

 

レイ:水飴、今日買う!

 

宇野:お祭りの水飴がアメリカに行くと、ハロウィーンのキャンディーになるんだよ。あと、お祭りで売ってるお面も、ちょっとハロウィーンの仮装みたいじゃない?

 

レイ:お面かぶってる子なんていないよ。

 

宇野:そうなの? パパはよくジイジやバアバから買ってもらったよ。そういえば、最近あまりお面してる子ども見ないな。

 

レイ:小学校の近くの神社のお祭りにはお面のお店もない。

 

宇野:日本のお祭りもだんだん変わってきてるんだね。

 

レイ:焼きそばと水飴買うお金ちょうだい。

 

宇野:日本のお祭りはアメリカのハロウィーンと違ってお金が必要だ(苦笑)。お金がいるならパパもついて行くよ。

 

レイ:こなくていい。友だちと待ち合わせしてるし。

 

宇野:こうして子どもはどんどん成長していって、家族で一緒に何か特別なことをする日々なんてあっという間に過ぎ去ってしまう。そういうことを小沢健二さんはこの本に書いてる(苦笑)。

──タイトルの『アイスクリームが溶けてしまう前に』にも、そういう意味が込められてますよね。

 

宇野:そう。子どもの時期って冷たいアイスクリームみたいなもので、あっという間に溶けて終わってしまう。それは子どもにとってもそうだけど、親にとっても同じことで。子どもと一緒に仮装道具を作ってハロウィーンを楽しむことができるのは、アイスクリームが溶けるまでの瞬間で、だから美しいし尊いっていう。それって、小沢健二さんがずっと歌ってきたことと同じですよね。

 

──確かに、「さよならなんて云えないよ」も「いちょう並木のセレナーデ」もそういう歌ですね。

 

宇野:「愛し愛されて生きるのさ」も「流星ビバップ」も。特にアルバム『LIFE』とその直後に作った曲は、ほとんどそういう内容だと言ってもいいくらい。あの当時、それは恋人との歌や友だちとの歌だったけど、最近はそこに親と子の歌も加わって、さらに表現の強さと奥行きが増している。彼はずっと同じことを歌ってきた。「今、僕たちは美しい時間の中にいるんだ」と。そして、「それは人生の中では一瞬のこと」「刹那なんだ」と。今回の『アイスクリームが溶けてしまう前に』は、そういう意味で、これまで小沢健二さんの書いてきたものの中で最も彼の曲に近いもの、彼の「新しい歌」のようだと感じました。

 

レイ:(そろそろお祭りに行きたくなって、うずうずしている)

 

宇野:子どもが8歳とか9歳とかになると、本当にそのことを実感します。『アイスクリームが溶けてしまう前に』に書かれていた話でいうと、まさに、親の作ったコスチュームじゃなくて、既製の売り物のコスチュームを着たがる年頃。でも、仲のいい友だちは子どもにとって何よりも大切なものだし、そのうちきっと恋人だってできる。そうなったら、親はもう見守るだけ。『アイスクリームが溶けてしまう前に』を子どもと一緒に声に出して読んでいて、最後の絵の見開きと、その後の一番最後の文字のページのところでは、子どもの前で恥ずかしかったけれど、思わず嗚咽で声が震えてしまいました。

 

レイ:もうお祭りに行っていい?

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