1 イタリアへの旅——レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』を見る

アートの評論家、解剖学者という肩書きを持つ布施英利は、アーティストを志す息子を持つ父親でもあります。ここでは、親子ふたりがヨーロッパ旅行でふれたアート体験を通して、つい子どもに教えたくなるようなプロによるアートの読み解き方、そして布施流子育て論をお届けします!

いわずと知れた名画の実物は、3D作品のような迫力!

『最後の晩餐』と長男。

絵に描かれているのは、真っ白なクロスのかかった長いテーブル、その向こうに13人の人物がいる。中央にいるのがキリストで、右に6人、左に6人、その弟子が晩餐の席についている。キリストが、おもむろに口を開き、「この中に自分を裏切った者がいる。そのため明日、自分は十字架に磔の刑を受ける」と告白する。それを聞いた弟子たちが動揺する場面を描いたもので、明日死ぬ運命なので、これが最後の晩餐、という訳だ。

 

長男は、今回が初めてのイタリア旅行で、つまり初めて『最後の晩餐』を見た。じつは自分にはもう一人、息子がいて、その次男は兄と同じ東京藝術大学で音楽を専攻している。中学生だった次男が、音楽の交流でイタリアにホームステイし、『最後の晩餐』を見た時の感想を思い出した。この名画には、中学生の心も掴む力があるらしく、帰国した次男は「あの絵って、壁から飛び出して見えたけど、どうして? ふつう3Dって、画面の手前に飛び出して見えるけど、あの絵は壁の向こうに3Dがあった、どうして?」と、ダ・ヴィンチの研究をしている父に、盛んに質問してきた。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチは、遠近法の研究と取り組み、『最後の晩餐』は、その集大成とも言える作品だ。この絵は、よく見ると、キリストのこめかみのところに、釘をさしたような穴が空いている。ダ・ヴィンチは、どうやらその釘に紐を付け、そこから横に、斜め上に、さらには斜め下へと紐を伸ばし、その紐の線に沿って、壁と天井の境目の線などを引いた。つまり一点遠近法の作図をした。まっすぐな廊下の光景などで、床や天井や壁が奥に行くにつれて、幅が狭くなり、一点へと修練していくように見える。あれを絵画に応用したのが、一点遠近法の技法となる。それは、遠くのものほど小さくなる縮小の遠近法という言い方もされる。この遠近法を理論と技法を完成したのがダ・ヴィンチで、『最後の晩餐』が、その最適な作例なのだ。

国語の教科書に掲載されている『最後の晩餐』

小さい大人!? 遠近法を知らない子どもの視点で見る世界

ここで、息子が2〜3歳の頃のエピソードをひとつ紹介したい。ある日、近所の公園のベンチに次男とふたりで座り、若者ふたりがキャッチボールをしている光景をぼんやり眺めていた。すると息子が自分に質問してきた。キャッチボールをしている若者をさして、「あの人、大人なのに、どうして小さいの?」というのだ。

 

それは遠くにいるから小さいのだろうと説明したが、もしかして幼児というのは、遠近法で世界が見えてないのではないか、とハッとした。目で見た通りのありのままの比例、という言い方で言えば、息子の見方の方が正しく、自分たち大人は、いろんな知性や経験で、世界を勝手に作り上げているのではないか、と。遠近法の説明を聞いた息子は「大人のように」世界が見えるようになったかもしれないが、それでひとつ、世界がつまらなくなったかもしれない。

 

>>次は子どもにも教えてたくなる、色を使った遠近法のトリック

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