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DATE 2018.05.23

映画『犬ヶ島』、野村訓市さんインタビュー。「責任の大きさに途中辛くなることも。脚本から何度も見過ぎて、面白さがわからなかった(笑)」

『グランド・ブダペスト・ホテル』『ファンタスティック Mr.FOX』などを手がけ、日本でも熱狂的なファンが多いウェス・アンダーソン監督による最新作『犬ヶ島』が、いよいよ5月25日(金)より公開される。日本を舞台にしたストップモーション・アニメであり、ハリウッドそして日本を代表する豪華アーティストが声優を務め話題になっている。

『犬ヶ島』に声優として参加し、映画の構想段階から深く関わっているのが野村訓市さん。野村さんにウェス・アンダーソン監督との出会いから『犬ヶ島』完成までのエピソード、そして自身も父親である視点からの映画観について話を伺った。

 

野村さんとウェス監督との出会いは、今から14年前。『ロスト・イン・トランスレーション』を手がけたソフィア・コッポラ監督がきっかけ。映画を観て日本を訪れる人が増えたときに、ソフィアからよく友人の面倒を見て欲しいとお願いされていた。その中の1人がウェス・アンダーソン監督だったという。

 

「ソフィアの友達が、学校の友達や仕事の人だったり毎回どんな人かが分からなくて。ウェスから連絡がきた時も、メールがただ一行来ただけで、ウェス=監督のウェス・アンダーソンっていうのがリンクしてなくて、後でわかりました。当時は、映画好きは知っていたけど、まだウェス・アンダーソン監督がそれほど知られていなかった。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『天才マックスの世界』とか、タイトルでわかる人はいたけど。第一印象は、変わった人だなぁ、でしたね(笑)。

初夏なのにシアサッカーかなんかの明るい色のスーツを着て、首にマフラーを巻いていて。でも汗ひとつかいていない。東京のいろいろなところに連れ回して、毎晩飲み歩きましたね。感情をあまり表に出さないから、すごく楽しいのか楽しくないのかよくわからないけど、興奮するとすごく喋る。僕は暑ければビーサンとか適当な格好をしているので、僕とは対極な格好だったんですけど、真逆な人って馬が合ったりするじゃないですか」

 

ウェス監督は飛行機嫌いで、日本に来たのはその1度だけ。いろいろなところに家があり、映画作りのためにNYやパリなどに月単位、年単位で滞在するとか。パリにいると噂を聞けば、野村さんが訪れた際に声をかけ食事をするという仲だった。『犬ヶ島』の構想を初めて聞いたのは、『グランド・ブダペスト・ホテル』が公開された後、間もなくのころだったという。

 

「ウェスが久しぶりにNYにいたんですよ。僕はその頃、仕事で毎月ぐらいNYに行っていて。ある日『日本の映画を作ることになったから、手伝ってくれ』ってメールが来て。もちろん、『いいよ』と答えたけど、ウェスのメールはすごく短い。だからどの程度手伝うのか分からなかったけど、仲のいい友達だし、それと同時にとても才能のある監督だと思っていて。いつか日本で映画を撮りたいって言ってたのも知っていたから、ファンとしても、すごく素敵なことだと思っていた。でも映画作りの大変さも知っているから、ちょっと面倒臭いっていう気持ちもありました(笑)」

ビジュアルのサンプルを集めたり、脚本の第一稿を読んで、日本語に訳したり、ストーリーを確認したり。そこからは雪だるま式に仕事が増えていったそう。

 

「ウェスは、この作品を漫画が原作の映画にしたかったらしく、『日本で漫画化したい』と言っていた。でも秘密主義だから、全てを知っているのは監督だけ。製作が始まって最初の2年は配給のFOXサーチライト・ピクチャーズも入らずに、ウェスと僕と、プロデューサーと、ウェスのアシスタントくらいしか全部を把握していなかった。漫画化するにも、脚本は見せられないし人形もまだできていない。そこから1人で交渉を始めたんですよね。ウェスが二言目には、僕に『信用してる』って言うんだけど、ぐれた息子が母親に一方的に信用されているみたいな気まずさもありましたね(笑)。

 

漫画家の大友克洋さんにポスターを作ってもらうのも、自分で交渉しに行き、8カ月かかりました。日本のキャスティングも全部やったし、事務所とのやり取りから契約書のサインまでやった。僕は “あの会社とあれを手がけた”とか言う、なんとかクリエイターみたいにアピールするのが江戸っ子として格好悪いと思っていて。横文字の役職をつけてるだけで、実は何もやっていないみたいな人間になりたくなくて。それが逆効果で、何をやってるか分からない怪しい人だと思われることもあるんだけど(笑)」

ウェス監督からのメールには必ず野村さんがCCで入り、何かを進める時には、「これでいいのか? kun(野村さんの愛称)?」と聞かれる。日本側の製作は野村さんだけで、「責任がだんだん重くなってきて、去年の暮れ頃から、かなり辛くなってきた(笑)」と振り返る。

 

「友達として信頼してくれるのがありがたかったけど、僕も彼の作品のファンで、みんながウェスの作品を期待している。日本の映画ということで、自分がミスることでウェスの評価が下がってしまうかもしれないと考えると、責任が重大だと気づいてしまった(笑)。公開日が近づいてきて、今“NO”を出してしまうと、やり直せなくなるとか。プロセス的に一生終わらないんじゃないかと思っていたけど、やっと終わりが見えてきて。今年2月にベルリン国際映画祭があったので、去年の12月には終わらせるぞ、と。

 

最後にロンドンで、ウェスや原作者のロマン・コッポラ、ジェイソン・シュワルツマンらが集まり、最終チェックをしている時に、クレジットの話になり。『ありとあらゆることをやったからこのまま行くとほぼ全部にお前の名前が入る』って言われて(笑)。最終的に、共同原案と日本側のキャスティングディレクター、声優にまとまりました」

 

野村さんが声優を担当するのは、舞台となるメガ崎市の小林市長。20年後の日本で“ドッグ病”が流行し、人間への感染を恐れた市長が、全ての犬を“犬ヶ島”へと追放する。反犬派で猫好き、裏社会ともつながる悪い市長役を演じている。

「脚本を作っている時に、日本語にウェスのリズム感をどう残すか、ただ短くするだけではあのオフビートの感じがなくなってしまうと考えていました。日本語と英語のセリフの長さが違うので、まず尺をはかるために日本人のセリフが多い5人の声を僕で撮ったんです。英語の犬は、全部ウェスがやって。そしたらウェスが『お前の声が予定していた人よりも、とても悪い市長っぽいからそのまま残す』と。正直、困りましたけどね(笑)。僕は演技なんてやったことないし、製作チームは全部外人だからいいけど、自分のテイクは誰がジャッジするんだ?って。年末の辛かった時期に、俺のセリフは誰も日本人が聞いてないじゃないか? 棒読みだし大丈夫か? と不安になりましたね」

 

野村さんをはじめ、日本人の声優にはRADWINPSの野田洋次郎さん、渡辺謙さん、村上虹郎さん、夏木マリさん、オノ・ヨーコさんら世界で活躍するアーティストが参加。他にも、ウェス作品ではおなじみのビル・マーレイやエドワード・ノートン、ティルダ・スウィントン、フランシス・マクドーマンドら名優たちが集結した。4年という長い製作期間を経て完成した『犬ヶ島』。観た感想を聞いてみると、意外な答えを返してくれた。

 

「脚本から何回も見過ぎて、もう何が面白いか分からなかった(笑)。ベルリンで最初に人が笑っているのを見た時は嬉しかったけど、はっと我に返り、『オープニング作品で映画好きが集まってるから笑ってるんだろ?』『無理に笑ってるんじゃないか?』って、いろんな意味で信用してなかった(笑)。

ウェスの作品は、よくビジュアルが評価されてますけど、この作品は、いろんなレイヤーがあるんです。表情豊かな人形や背景セット、デザインも素晴らしい。シンメトリーな画面構成や水平に動くカメラ、コスチュームの可愛さもあるし、僕はサントラも好きだし。いろんな楽しみ方ができるのかなと思っています。話は、少年と犬のストレートな友情話で、冒険話でもある。ビジュアルとか全部を抜いても、残る話がとてもまっすぐな友情と冒険の話で、そこを楽しんでもらえたらいいなと思います。

小学校4年生ぐらいの子ならそのまま観て、ちっちゃい子は情報が多いから、吹き替えがいいかもしれない。普通に子どもが観て、楽しんでくれたらいいなと思う。アメリカの友達は、家に帰ったらいつもより長く犬を抱きしめたって言ってた。そんな風に感じてくれるのもすごくいいなと思う」

 

野村さん自身も2人のお子さんがいる父親。世界のカルチャーシーンを常に肌で感じ、それを伝える立場でもある野村さんは、子どもたちと映画をどう楽しみ、映画をどう捉えているのだろう。

 

「ウェスの作品は、まだ観せていないけどもう少し大きくなってからの方が、面白いんじゃないかなと。子どもたちも映画は観ますけど、今の子どもたちなので、僕があまり好きじゃないようなものを観てますね(笑)。親として、観るものや聴くものは強制できないじゃないですか。

僕は子どもたちが産まれた時から、家で古いソウルやジャズのレコードをかけてたけど、幼稚園に行けば、テイラー・スイフトやアリアナ・グランデが好きになる。でもいつか年をとった時に、歌がもっとうまくて残る音楽を聴いていたなあと思い出してくれればいい。僕が小さい頃も、親がカーペンターズやビートルズばかりかけてましたから。いつか戻って来ればいい、戻れるものを作っておけばいいと思っています。

 

親子で映画を観に行ったりもしますけど、それは自分が観せたいものより、みんなが観たいものを観ればいいんじゃないかと思う。映画は、自分が興味を持ったものを、興味を持った段階で観ればいい。僕自身も、親が勧めたものは一つも観なかったからね(笑)」

 

映画は、“その時の気持ちとタイミングによって評価が変わる”もの。定期的に見返して、常にバージョンアップを続けているそう。

 

「自分がティーンの頃に好きだった映画を10年後に観たら、こんなつまんない映画によく感動してたなあと思うことがある(笑)。映画と小説は、『この人のこの作品はいいけど、この作品は駄作だよね』と言われる駄作の方が、自分にとっての救いで傑作だったりするんです。1回でも好きだったものは、定期的に見返すようにしているんですど、どんどん脱落していく。ああいう状況であの年で観たからいいんだなと。だけど『ゴッドファーザー』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の完全版なんかは何年かごとに観ますけど、いつ観てもいい。長いんですけどね」