運命を知りながら、子育てはできるのか? 圧倒的な母なる強さを映し出す感動作『メッセージ』

年間百数本の映画を観ていて、会った人みんなに「観た方がいいよ」「絶対おすすめ!」とゴリ押しする映画はそれほどないが、久しぶりにノックアウトされた作品に出会った。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の最新作『メッセージ』だ。

上映後に宣伝担当の方と話をしている最中にも、ストーリーを再確認して涙が止まらないという、恥ずかしすぎる予想外の展開に。涙腺が崩壊した大きなポイントは、主人公の圧倒的な母なる強さを目の当たりにしたからだろう。もうひとつは、子どもの運命を知った上で子育てをすることの恐怖たるものを想像し、「自分には乗り越えられないだろう」と感じたからだ。

 

物語は、突然地球に現れた未知なる宇宙船のような物体から始まる。主人公のルイーズは“娘を亡くした言語学者で、軍から宇宙船との接触・交信を依頼される。宇宙船は、アメリカ以外にも日本、ロシア、中国と地球のさまざまな場所に同時に現れていた。各国それぞれで「目的は何か」「求めているのは友好か、それとも戦いか」をさぐるべく接触を試みていた。

ルイーズのパートナーとして物理学者のイアンが共に宇宙船に入った。宇宙船の中には、独特な姿をした知的生命体がいて、ルイーズは彼らをヘプタポッドと呼び、それぞれに名前をつけ徐々に交流を深めていく。手足から出される、墨汁のような図形で対話を深めていくうちに、ルイーズは時間が逆行するような奇妙な錯覚に陥っていく。

 

そんな中、しびれを切らした中国が核攻撃の準備を始める。国同士での情報共有をやめ、それぞれが戦いの準備を始めていた。ギリギリの状況で、ルイーズはヘプタポッドが放つ言葉の意味を理解し、なんとか攻撃を止めさせようとするが……。宇宙船が地球に訪れた意味は、そして“彼ら”が伝えたかったことは何なのか?

『メッセージ』は壮大なスケールのSF感動作である。柿の種のような形の宇宙船、タコのような足をもった知的生命体も出てくるし、知的生命体との対話の仕方も興味深く、“未知との遭遇”的なSFならではおもしろさもふんだんにある。

 

しかし、一番心を動かされるのはそこではない。人間が持っている弱さやもろさ、儚さをあらわにし、それらと共存しながらも生きることの意味を深く知らしめるからだ。マックス・リヒターによるメインテーマソング『on the nature of daylight』も素晴らしく、作品にフィットしている。この楽曲は、リヒター自身がイラク戦争への怒りを落ち着かせるために作曲したものだと言う。繰り返される同じフレーズが、“誰も観たことがない感動のラストへとつながる不思議な世界観にも通じている。

 

 

定められた運命を知りながら生きることは、正直地獄だと思っていた。しかし深く考え、想像することで分かったのは、1日1日、1分1秒を、今この瞬間を愛おしみながら過ごすことの大切さだ。もし人生が明日終わるとしたら、この一瞬を誰もが大事にしようと思うだろう。子どもの人生も然り、永遠なんて保証されていないのだ。

映画館で是非感じてほしいのが、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督ならではの静寂に満ちた世界観。社会派作品やサスペンスなどを多く手がけてきた監督の作品には、いつもどこか静けさがある。今作『メッセージ』も同様で、監督自身も「最もパワフルなサウンドは、無音なんだ」と語る。無音の中にただよう“知的生命体”の動作音、宇宙船内の音。呼吸や心の移ろい、未知なるものが発する音と共鳴する無音が、作品を強く印象づけている。

 

見終わった後の感想は、人によって異なるだろう。私と同じように主人公ルイーズに圧倒されるか、“知的生命体”や宇宙船などSF的表現への感想か、交差する時間軸のストーリーへの疑問か。テーマもジャンルもストーリーも、どれも掘り下げがいのある内容なので、感想を聞くだけでも人となりが分かりそうだ。そういう意味でも、『メッセージ』は全ての人におすすめしたい映画である。

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