Lifestyle magazine
for modern family

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DATE 2018.02.10

お題 02:「食卓」
(提案者:よしいちひろ)

ワガママだっていいじゃない!子どもに愛を注ぐようにじぶんの人生も愛したい!そんな3人の女たちが紡ぐアートワーク。ひとりがお題を出し、リレーをしながら3人でひとつの作品を仕上げます。3段階のアプローチで作品がどんな風に進んでゆくのか、自由な解釈でご覧ください。

タイトル:「朝のあかるさ」
文/高原たま

ナイ、モット、チョーダイ、オイチーネ、オカワリ。

生存本能がそうさせるのか、ふえてゆくこどもの語彙は親の呼称よりさきに、食事にかんするものばかりだった。5か月で離乳食がはじまってからこのかた、幸い(という次元ははるかにこえて)こどもは食欲を発揮し、1歳10か月の今となっては、かわいいOLさんをしのぐくらいの量の食事をとる。

パーン! と柏手(かしわで)を打つようにいただきますのしぐさをするとぐんぐん食べ進め、すべてをたいらげても、ふたたびごちそうさまの「パーン」が出ないかぎり、満足していないという意思表示である。そののち手はじめに「モットー! モットー!」とさじを器にカンカン打ちつけながら天を仰いで訴えて、こちらがもうじゅうぶんだと判断しおかわりをあげないでいると、鬼瓦のように口をひん曲げて泣きながら抗議をするか、いじましく空(から)の器をさじですくって食べるまねごとをくりかえしては憐れをさそってくる。

平日の昼間はこども園にお世話になっていて食事はそれぞれ別にとるし、夫はほどほどに帰りが遅いのでいっしょに晩ごはんというわけにもいかない。3人そろって食卓につくのは、おもに朝ごはんだけということになる。

或る朝、こどもの献立はこんな風。

納豆ごはん、にんじん入りのたまごやき、チンゲン菜のおひたし、鰆の煮つけ、根菜汁、バナナヨーグルト。(産まれてしばらくはたいそうな便秘あかちゃんで、2、3日おつうじがないことは茶飯事、10日ナシということすらあったため、和食だろうが洋食だろうが朝ごはんにはバナナヨーグルトがかならず出ることになっている。そのせいかどうか、きわめて快腸になった。)おとなのごはんは、これにナマモノや香辛料のきいたおかずなどが足される。どれも、こしらえたのは料理係の夫である。

夫はしごとがえりに閉店間際のスーパーをはしごして、いかに状態のよい見切り品をえらびとることができるか、ということに日々よろこびを感じている。それらを晩酌用の肴(さかな)と翌朝の献立にムダなくつくりかえるということにも。昨夜は1500円の鯛のサクが300円で手に入り、おおぶりな10尾の赤海老は半額になっていたとうれしそうに袋をぶらさげて帰ってきた。鯛は昆布〆にされて、赤海老の殻でだしをとった濃厚なみそ汁といっしょに朝の食卓にのぼるだろう。夫の息ぬきとたのしみを奪うとわるいのでわたしは台所を明け渡している。ともっともらしいことを言って、かわりにせっせと雑巾がけなどをする次第。そんなあんばいで過ごしていたら、こどもはようやく親の名前を体得したさい、夫のことを「トト」、わたしのことを「パパ」、と呼ぶようになっていたのだった。

 

さて、朝食をとりながらやかましく話をする。「どこそこの店がランチの弁当をはじめたのでためしにレジにもっていったら『あたためますか』と訊かれてお願いしたところ、黙って30円加算された上に『おしぼりをひとつください』と申し出たら『今日だけだからね。これだって経費かかってるんだから!』と言われたのだがそんなにセコく責められるくらいならお望み通りに今日だけしか行かないから安心しなよ」だとか、「ほんとうは今年町内会の班長らしかったんだけど、うちは乳幼児がいるからってスキップしてくれたんだって。ありがたいよねぇ」とか、生活のよしなし言をとにかく何でも。

こどもはズ、ズ、ズ、と汁椀をかたむけながら、途中で「ネー」とか「ウン」とか「セコーイ!」とか、さも話し相手はじぶんであるというような体(てい)で夫よりも先にあいづちを挟んできたりする。みそ汁から立ちのぼるのは、海老のあたまの香ばしさ。

一切のネガティブなことばを排してうつくしい前向きなことばだけを耳に入れたいと力んでいたころもあったけど、朝ごはんをおいしく食べて話せてさえいればとりあえずオッケー。ここはそういう場所なのだという安心感を優先させたい。いつだか口のまわりを納豆でべとべとにしながら食べ盛るこどもの顔をぬれたガーゼでぬぐいながら、そう思ったのだった。とまたもっともらしいことを言って、喜怒哀楽の発露はつづく。

(6・18)

タイトル:「儀式のような」
写真/松元絵里子

タイトル:「幸福とは」
絵/よしいちひろ

次回は高原たまがお題を出し、松元絵里子から制作をスタート。

お題は「お気に入り」。ぜひお楽しみに。